『比ぶ者なき』
馳星周さんの長編小説、『比(なら)ぶ者なき』(中公文庫)を入手しました。
本書は、大化の改新の立役者、中臣鎌足(藤原鎌足)の子で、藤原不比等(ふひと)の半生を描いた古代時代小説です。
ノワール小説(暗黒小説)で活躍する著者が初めて取り組んだ、注目の歴史時代小説です。
万世一系、天孫降臨、聖徳太子――すべてはこの男がつくり出した。藤原史(ふひと)(のちの不比等)が胸に秘めた野望、それは「日本書紀」という名の神話を創り上げ、天皇を神にすること。そして自らも神の一族となることで、永遠の繁栄を手にすることであった。古代史に隠された闇を抉り出す会心作。
(カバー裏の内容紹介より)
これまで古代史が苦手なこともあり、これまで藤原不比等に関心をもったことがなく、あんなこともこんなことも成し遂げたスゴイ人物だということを知りませんでした。
著者の馳さんは、不比等が古代史に興味を持ち始めたきっかけだったそうです。
「本当にあの者でだいじょうぶでしょうか」
阿閇が口を開いた。瞼が腫れ、目が赤い。
「いうら鎌足殿のご子息とはいえ、出仕して間もない、ただの判事でございます。
軽の行く末が心配でならないのだろう。阿閇は史の出て行ったあとをじっと見つめていた。
「鎌足様も霞むほどの英傑であられるという噂です」
阿閇の不安に答えたのは軽の宮人だった。県犬養の一族の娘だ。阿閇はこの宮人を寵愛していた。軽もよく懐いている。
(『比ぶ者なき』P.12より)
持統三年(689)四月。
草壁皇子が薨去し、皇子を大王に就けたいと願っていた、母である大后の?野讃良(うののさらら)、皇子の正妃阿閇皇女(あへのひめみこ)は、悲しみに浸っていました。
大后は、草壁と阿閇の息子で七歳の軽(かる)を王位に就けたいと、藤原史(後の不比等)に、草壁皇子の佩刀「黒作」を託しました。
史は、軽皇子を王座に就けるために、天智天皇(中大兄皇子)の皇女である大后が即位して、高市皇子を太政大臣に任命するように進言しました。
史は、いかにして権力を握り、現在にまでつながる天皇制の礎を築いていったのか、飛鳥から奈良時代の古代史に興味を抱かせてくれる一冊です。
巻末に収録されている、マンガで描く持統天皇物語『天上の虹』の作者・里中満智子さんとの対談も楽しみです。
比ぶ者なき
著者:馳星周
中公文庫
2020年3月25日初版発行
『比ぶ者なき』(2016年11月、中央公論新社刊)を文庫化
カバーイラスト:チカツタケオ
カバーデザイン:bookwall(村山百合子)
●目次
比ぶ者なき
馳星周×里中満智子(マンガ家) 古代ロマン対談
本文589ページ
■Amazon.co.jp
『比ぶ者なき』(馳星周・中公文庫)
『天上の虹(1)』(里中満智子・講談社漫画文庫)