宮本昌孝さんの短篇時代小説集、『武商諜人(ぶしょうちょうにん)』(中公文庫)を入手しました。
本書は、『ふたり道三』や『ドナ・ビボラの爪』などの歴史時代伝奇小説の名手として知られる著書の魅力が詰まった短篇集です。
1992年2月~2016年7月に発表された9編に加えて、書き下ろし短篇「幽鬼御所」を加えています。
明智光秀、本能寺にて織田信長を討つ! 明智軍に追われ、絶体絶命の徳川家康を無事、領国へ脱出させ、後の飛躍へと導いた商人・茶屋四郎次郎。その生涯を爽やかに描いた表題作「武商諜人」を始め、特別書き下ろし「幽鬼御所」など、珠玉の十作品を収録。歴史時代伝奇小説の第一人者による、ファン待望の文庫オリジナル作品集。
(カバー裏の内容紹介より)
表題作の「武商諜人」は、「神君伊賀越」といわれる徳川家康の脱出劇の際に、物心両面で支援を行った茶屋四郎次郎(初代)を描いた短篇です。
明智光秀の謀叛をいち早く察知した四郎次郎は、信長へ注進するのではなく、堺にいる家康に本能寺襲撃を報せることを決めました。
「武家も商家も……」
と徐に四郎次郎が口を開いた。
「最も大事なるは、利心ではなく、赤心」
利益を追求する心が利心。対して、赤心とは、嘘偽りのない心、すなわち真心とか誠意をさす。(『武商諜人』P.145より)
本書で楽しみなのが、著者の初期の作品「まんぽの遺産」です。
将軍が外出の際に専用の尿筒(しとづつ)を差し出す、公人朝夕人(くにんちょうじゃくにん)と呼ばれる役職を世襲で行った、土田孫左衛門が遺したとする古文書をモチーフにした短編。
未読の作品が多くて、物語性と想像力豊かな「宮本ワールド」が大いに楽しめそうです。
武商諜人
著者:宮本昌孝
中公文庫
2020年3月25日初版発行
カバーイラスト:もの久保
カバーデザイン:bookwall(築地亜希乃)
●目次
幽鬼御所
戦国有情
不嫁菩薩
恩讐の一弾
武商諜人
龍吟の剣
秋篠新次郎
金色の涙
明治烈婦剣
まんぽの遺産
解説 細谷正充
本文373ページ
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『武商諜人』(宮本昌孝・中公文庫)
『ドナ・ビボラの爪 上 帰蝶純愛 篇』(宮本昌孝・中公文庫)
『ふたり道三 上』(宮本昌孝・祥伝社文庫)