千野隆司(ちのたかし)さんの文庫書き下ろし時代小説シリーズの第十二弾、『おれは一万石 慶事の魔』(双葉文庫)を入手しました。
本書は、代々尾張藩の付家老を務める家柄の美濃今尾藩竹腰家の次男に生まれ、下総高岡藩井上家の世子となった正紀が、財政難に苦しむ一万石の井上家を守るため奔走する、痛快時代小説シリーズの最新刊です。
正紀と京のあいだに子が生まれ、正紀の親友、山野辺には許嫁ができた。おめでたつづきの高岡藩だったが、続々と届く祝いの品の中に、とんでもない罠が隠されていた。高岡藩に恨みを抱く石川総恒と悪徳商人が捨て身で仕掛けた最後の大勝負だった。窮地に陥った高岡藩を救うため、正紀は江戸の町を奔る! 好評シリーズ第十二弾!
(カバー帯の内容紹介より)
前作『繰綿の幻』で遺恨を残した、江戸城の留守居役を務める五千石の大身旗本石川総恒が本書でも高岡藩にかかわってきます。
そしてここで、宗睦は正国が奏者番に就任した折の話を始めた。
「正国の他に、ぜひにと名の挙がった者がいた。下館藩二万石の当主石川総弾だ。石川家一門の石川総恒が推していた。もちろん伊勢亀山藩六万石の石川総博もだ」
「石川総恒殿が、とりわけ強く推しておりましたな」
宗睦の言葉に睦群が続けた。
「総弾は有能だが、飢饉で疲弊した下館藩を立て直さなくてはならぬ。奏者番就任はそれからで十分だ。しかし総恒は急いだ」(『おれは一万石 慶事の魔』P.18より)
正紀は、出産の報告をするために、尾張徳川家藩主で伯父の宗睦を訪問し、その席には兄の睦群も同席していました。正紀の義父で叔父でもある高岡藩主の正国の奏者番就任の際の話にも及び、逆恨みから足元をすくわれないように注意を受けました。
ところが、正紀夫婦に子が生まれ、正紀の親友で北町奉行所高積見廻り与力の山野辺蔵之助の許嫁ができるという、慶事が続くなかで、祝いの品に紛れて、とんでもない罠が隠れていました。
正紀は、総恒と悪徳商人に仕掛けられたこの窮地を切り抜けることができるのでしょうか。ハラハラドキドキの第12巻の始まりです。
さて、物語の中で、高岡藩は、利根川沿いの高岡河岸を江戸と霞ケ浦や北浦、銚子方面をつなぐ舟運の中継地として活性化させることで、藩財政の再建を進めていました。
本シリーズでは、江戸周辺の物流や経済の仕組みについても、わかりやすく物語に織り込んでいます。絵空事ばかりの勧善懲悪話ではなく、どこか現代にも通じる臨場感があって奥行きのあるストーリーとなっていて読む者を惹きつけます。
カバーデザイン:重原隆
カバーイラストレーション:松山ゆう
●目次
前章 重なる慶事
第一章 二樽と一樽
第二章 ご公儀御用
第三章 無用の取引
第四章 鉄砲洲稲荷
第五章 吉原面番所
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『おれは一万石 慶事の魔』(千野隆司・双葉文庫)(第12弾)
『おれは一万石 繰綿の幻』(千野隆司・双葉文庫)(第11弾)