金剛の塔|木下昌輝
木下昌輝(きのしたまさき)さんの長編時代小説、『金剛の塔』(徳間書店)を紹介します。
本書は、百済から連れてこられた宮大工が創業した世界最古の建設会社、金剛組と、彼らによる四天王寺の五重塔建造のドラマを描いた歴史時代小説です。
以前にブランディングの講義を受けた際に、ある先生から、日本で最も古いブランドの一つとして京友禅着物の千總(ちそう)を紹介されました。その際に、1555年(弘治元年)に創業した千總に対して、1000年近く前の578年に創業し、現在も続く日本最古の会社として、金剛組があることを教えていただきました。
「わしらは聖徳太子から四天王寺と五重塔を守護するようにいわれた一族や」
美しい宝塔を建てるため、百済から海を渡ってきた宮大工たち。彼らが伝えた技術は、飛鳥、平安、戦国と時代を超えて受け継がれた。火災や戦乱で何度も焼失したが、それぞれの時代の宮大工たちが五重塔を甦らせる。そして、その塔は決して、地震では倒れなかった。なぜなのか?
現代の高層建築、丸の内ビルディングや東京スカイツリーにも生きている「心柱(しんばしら)構造」の誕生と継承の物語!
(Amazonの紹介文より)
大阪四天王寺の五重塔は、百済から渡来した金剛重光によって建てられ、兵火や落雷により七度も破壊されつつも、そのたびに蘇り、千四百年にわたり屹立してきました。
この間、一度も地震で倒壊したことがないという、優れた木造建築です。
本書では、その秘密を、聖徳太子の姿が描かれた木製のストラップ風お守りとスカイツリーのストラップをガイド役に、時空を超えて旅をして解き明かします。
さて、前置きが長くなった。安土桃山、平安のはじめ、江戸の終わり、ふたたび平安の半ば、そして江戸のはじめ、最後に聖徳太子の御代。
様々な時代を旅し、百萬合力の宝塔の完成を見届けようではないか。スカイツリーという名の新参の宝塔よ、心の準備はよいか。
では、ゆくぞ。(『金剛の塔』 位置No.368より)
物語は、安土桃山時代に移ります。
天正四年(1576)に四天王寺が焼き打ちされてから、十年が経過した頃。関白秀吉の正妻、北政所の命で五重塔の再建が決まりました。しかしながら、魂剛組(物語では金剛組の「金」を「魂」に字に変えて表記)では、肝心なものを戦乱で失っていました。
魂剛組の代表である正大工の竹若が行方知らずの上に、四天王寺の焼き討ちの際、四郎の養父魂剛広目が礎石を掘りかえして仏舎利を持ち去って失踪していました。
「仏舎利なくして、本当の五重塔とはいえん」
仏舎利とは、釈迦の遺骨のことである。全ての五重塔は、釈迦の遺骨を安置するためにある。心柱がたつ礎石の中に埋めこむのだ。
(『金剛の塔』 位置No.796より)
本書では、五重塔を巡る様々な時代の物語を読み進めるうちに、プラモデルのように五重塔が次第に組みあがっていきます。それにあわせて、五重塔の構造上の秘密が明らかになっていきます。
我輩の先祖は、最初はとおく朝鮮の地に生まれた。そのころ、この日ノ本にはまだ猫という尊い一族は一匹たりともおらず、間抜けな犬や性悪なねずみどもが跋扈するじごくであったという。
そして、猫と同じくらい大切なものもなかった。
我輩が今いる、四天王寺が守りつたえる仏教である。
(『金剛の塔』 位置No.2139より)
四天王寺の経典を守るために住みつき、魂剛組を見守り続けるものとして、猫が登場します。第四章では、その猫が大活躍します。
「盗むっていうのは、お前がいったように技術を見て盗むっていう意味もある、けど、もっと大切な意味がある。それは継ぐってことや」
「継ぐ?」
「そう、伝統を継ぐってことや。お前が鑿を研ぐ技を次の世代の職人に伝えられたとき、初めておれや健太郎の技を盗めたっていえる。おれら堂宮の職人は、建てるだけじゃあかん。技術を伝えて、メンテナンスをずっとして、災害や戦争で潰れたときに、また建て直せるようにする。その技術を次の世代に伝える。そうやって何千年ものこるものを造るのが、ほんまの仕事や」
(『金剛の塔』 位置No.308より)
1400年以上にわたり、社寺剣瀬地区の匠の技術と魂を継承してきた魂剛組(金剛組)。
その神髄は、序章で登場する棟梁の、「盗む」という言葉で示唆されていました。
五重塔の建造に関わった名もない堂宮大工たちの活躍に胸躍る、建築愛にあふれる、読み味の良い歴史時代小説です。
●目次
序章 技術を『盗む』
第一章 心柱を『立てる』
第二章 罪業を『償う』
第三章 屋根で『泣く』
第四章 心柱を『継ぐ』
第五章 何度も『蘇る』
第六章 姿形が『変わる』
最終章 叡智を『育む』
●書誌データ(Kindle版より)
金剛の塔
著者:木下昌輝
出版社:徳間書店
2019年5月31日 電子書籍版発行
装画:浦 正
装幀:岡本歌織(next door design)
推定ページ数:305ページ
■Amazon.co.jp
『金剛の塔』 (木下昌輝・徳間書店)
『金剛の塔』 Kindle版(木下昌輝・徳間書店)