鷹井伶(たかいれい)さんの文庫書き下ろし時代小説、『お江戸やすらぎ飯』(角川文庫)を献本いただきました。
タイトルからわかるように、おいしい料理と人情が味わえるグルメ時代小説です。
高田郁さんの「みをつくし料理帖」シリーズ以降、多くのグルメ時代小説は刊行されてきました。
本書の特長として、おいしいだけでなく、体に良い、滋養のある料理、薬膳料理が物語の中で登場する点が挙げられます。
著者は、井上登紀子名義で、映画・テレビ・ラジオ・舞台作品の脚本家として活躍されている一方で、時代小説を発表しています。
吉原を舞台にした捕物小説「廓同心雷平八郎」シリーズや古河藩藩主で寺社奉行をつとめた土井利位が活躍する『雪の殿様』などの読み味の良いエンタメ時代小説を発表されています。
江戸の大火で両親とはぐれ、吉原の遊郭で育てられた佐保。花魁になるための修業を重ねていた彼女には特殊な力があった。水穀の精微――食物から得られる滋養、養生の極意を、うまれつき備えているというのだ。幕府のお抱え医師の名家・多紀家の五男・元堅は、病に効く食材を言い当てる佐保の力を目の当たりにする。やがて、佐保は医学館に預けられ、病人を救う料理人を目指していく……。美味しくて体にいいグルメ時代小説!
(本書カバー裏紹介より)
主人公の佐保は、六歳のときに丙寅の大火(文化三年)で両親とはぐれて、吉原の遊郭で育てられました。佐保は、遊女になる定めが決まっていて花魁修業を続けるかたわら、台所を手伝います。
「水穀の精微とは何でございますか」
と、不思議そうな顔をして尋ねた。
「水穀の精微とはな、水、穀物、すなわち飲みもの食べもの、人が口にするものから得られる滋養のこと。つまりは養生の極意じゃ。知ってのとおり、人の身体というものは食したものから出来ている。骨も皮も五臓六腑も。むろん、親から生まれ出たときに受け継いだものもあるが、成長したのちは特に、どのようなものを食するかが、養生の決め手となる」
(『お江戸やすらぎ飯』P.84より)
彼女は、「水穀の精微がわかる」という特殊な能力を持っていました。すなわち、体の不調を訴える遊女や具合の悪そうな廓関係者、それぞれの症状に応じた食材で料理を作ることができるのです。
これから私は、病の人を救う料理人になる!
(『お江戸やすらぎ飯』P.120より)
ある出来事をきっかけに、佐保は吉原を出て、幕府の奥医師多紀家が督事(館長)をつとめる医師養成校の医学館で料理人となります。
そこではどんな日々が待っているのでしょうか。
今回、本のPR用のPOPもお送りいただきました。
巻末には、佐保の作る薬膳料理のレシピも薬膳の解説とともに、掲載されていて楽しみです。
●目次
第一話 廓の少女
第二話 医学館の人たち
第三話 夫婦相和し
第四話 小町娘の憂鬱
あとがきにかえて
佐保の薬膳料理
■Amazon.co.jp
『お江戸やすらぎ飯』(鷹井伶・角川文庫)
『廓同心雷平八郎 (1) 百花乱れる』(鷹井伶・富士見書房新時代小説文庫)
『雪の殿様』(鷹井伶・白泉社招き猫文庫)