安部龍太郎さんの長編時代小説、『士道太平記 義貞の旗』(集英社文庫)を入手しました。
『婆娑羅太平記 道誉と正成』に続く、安部版太平記シリーズの第2弾です。
鎌倉末期から南北朝時代を描く時代小説は、江戸や戦国に比べて作品点数は多くありません。楠木正成や足利尊氏に比べて、「太平記」のヒーローの一人、新田義貞に光を当てて描いた作品は少なく、その活躍は歴史ファンを除くとあまり知られていません。自身に振り返ってみても、これまで義貞に関心を持つ機会がなく、その人物像を説明することができません。
倒幕の機運が高まる鎌倉末期。新田義貞は、壱岐に流されていた後醍醐天皇方として挙兵し、大塔宮護良親王、楠木正成、足利尊氏らとともに、ついに鎌倉幕府を滅ぼした。しかし、天皇新政もつかの間、反旗を翻し始めた足利氏の追討のため、義貞は自らの義に従って出陣するが……。帝に忠節を尽くし続けた義貞。歴史の表舞台を駆け抜けた太平記の雄の劇的な生涯を描き切った安部版「太平記」第2弾。
(カバー帯の紹介文より)
新田小太郎義貞は、上野国新田荘(にったのしょう。現在の群馬県太田市周辺)の武将。
遠祖義重が赤城山の南のふもとを開拓して新田荘と呼ばれる荘園の打ち立てて、以来およそ百八十年、新田氏は八代にわたって荘園を維持し、利根川流域に一大勢力を築いてきました。
「右京亮よ。天神山の石切り場を襲おうとしたのはお前だな」
「ああ、その前にやられたがね」
「今日はその仕返しに来た。落とし前で片をつけようと思うがどうだ」
落とし前とは、首を落とされる前に支払う堪忍料のことである。
「わしの敗けだ。蔵にあるだけ持っていけ」
「そんなにいらねえよ。百五十貫だけもらっていこうか」(『士道太平記 義貞の旗』P.33より)
鎌倉幕府から京都大番役を命じられた新田義貞は、上洛のために必要な百五十貫の金策に困り、野盗で金を貯め込んでいた不良御家人・月田右京亮の屋敷に夜襲をかけて、銭を奪い取る作戦を実行します。
武勇抜群で義に篤い好漢・新田義貞の個性がよく表れた冒頭の場面から、安部版太平記の世界に引き込まれていきます。
本書で楽しみの一つが、分倍河原の戦いのシーン。東京・府中郊外が戦場になった戦いが描かれています。
●目次
第一章 京都大番役
第二章 上洛
第三章 世尊寺房子
第四章 大塔宮護良
第五章 旗挙げ
第六章 分倍河原
第七章 鎌倉後略
第八章 論功行賞
第九章 帝の信任
第十章 箱根・竹下合戦
第十一章 京都争奪戦
第十二章 それぞれの心
第十三章 帝のゆくえ
第十四章 再起への道
第十五章 義を受け継ぐ者
解説 細谷正充
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『士道太平記 義貞の旗』(安部龍太郎・集英社文庫)
『婆娑羅太平記 道誉と正成』(安部龍太郎・集英社文庫)