青春小説や探偵小説など現代もので活躍されている作家の樋口有介の初の時代小説、『変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦』が祥伝社文庫より復刊され、入手しました。
本作は2004年に筑摩書房で単行本『船宿たき川捕物暦』として刊行されたあと、ちくま文庫から文庫版も出ており、その頃に読み、ずっと再読したいと願っていた作品です。
元奥州白河藩士の倅・真木倩一郎(まさきせいいちろう)は、朝顔を育てる優男の風貌とは裏腹に江戸随一の剣客。ある日幼馴染みの天野善次郎が新藩主・松平定信の命で来訪、倩一郎に前藩主のご落胤の噂があるという。定信からは帰参を乞われる中、船宿〈たき川〉の女将で、江戸の目明しの総元締・米造の娘、お葉を助けたことで運命が一変。倩一郎は幕府も揺るがす暗闘に巻き込まれていく……。
(文庫カバー裏の紹介文より)
物語は、江戸の剣術道場で師範代をつとめる真木倩一郎の元に、幼馴染みで白河松平家の家臣天野善次郎が訪ねてきたところから始まります。
倩一郎の父で白河松平家の大納戸役だった倩右衛門が倩一郎を伴って出奔したのがその十年前のことです。善次郎は、白河松平家を継ぐ上総介定信より、真木倩右衛門を探し出せと命を受けて、倩一郎の前に現れました。
老中田沼主殿頭意次と松平定信の対立から始まる、善次郎の話では……。
一気に作品の世界に取り込まれていきます。
人形佐七や銭形平次が今の時代にあまり読まれない理由は単純で、時代小説ファンの目が肥えたからです。(中略)ですけどね、横溝先生や野村先生が執筆していたころは資料も少なかったしインターネットもなかったし、時代考証もそれほどやかましくなったんです。それらちょっとした難点をのぞいての一押しは「人形佐七捕物帳」、横溝正史は金田一耕助シリーズばかりもてはやされますが、作品のグレードは佐七シリーズのほうが上でしょう。
(『変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦』「あとがき」P.447より)
普段は最初に読まないのですが、あとがきに目を通すと、著者が初めて捕り物帳を書かれることになった経緯を綴っておられました。
時代小説の捕り物帳にはまり、そのなかで特に面白かったのが横溝正史さんの『人形佐七捕物帳』と野村胡堂さんの「銭形平次捕物控」ということを知り、本書が初めての捕物小説とは思えない、江戸が情緒豊かで時代考証のツボを押さえた描写に納得しました。
●目次
変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦
あとがき
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『変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦』(樋口有介・祥伝社文庫)
『羽子板娘 自選人形佐七捕物帳1』Kindle版(横溝正史・角川文庫)