中村朋臣さんの文庫書き下ろし時代小説、『蛇足屋勢四郎 困りごと、骨折りいたす』(光文社文庫)を入手しました。
著者は、2006年、第12回歴史群像大賞優秀賞を受賞してデビューし、疾走感あふれる剣豪小説で活躍する気鋭の時代小説家です。
「蛇足屋勢四郎」シリーズは、現時点(2019年11月)まで、本書のほか『忠義の果て』『野望の果て』の3巻が刊行されています。
島帰りの牢人・松波勢四郎は、下女のお菅と二人、内職と便利屋稼業で暮らしをたてている。ある時、持ち込まれた頼み事の裏に、自身が島流しになった事件の黒幕・鳶沢又八郎がいるらしいという話を聞かされた。用心棒を頼まれた別件にも、その一味が絡んでいるらしい。幼馴染みの与力・内藤藤十郎にも力を借り、因縁の相手の正体を暴こうとするが……。
(文庫カバー裏の紹介文より)
主人公の松波勢四郎は鏡新明智流の剣の使い手ですが、五年前に米問屋に押し入り、十におよぶ人を斬った罪で八丈島に流され、一年半後に江戸に戻って、蛇足屋を生業とするようになりました。
「お主、何者だ」
黒装束の一人が、ようやく低い声を発した。
「なんてことはねえ。……蛇足屋、って商売をしている者さ」
勢四郎は言い慣れたその言葉を、舌の上から吐き出した。
「蛇足屋……」
「そう。世の後始末をする便利屋みてえなもんさ。余計な世話かもしれねえが、奉行所にも聞き届けてもらえねえような困りごとを、そっと片付けますってね」
(『蛇足屋勢四郎 困りごと、骨折りいたす』P.15より)
物語の冒頭で、蛇足屋の勢四郎は、真夜中の千住小塚原の処刑場に現れます。首を切られて埋められたばかりの罪人の屍と首ばかりを掘り起こして盗む賊たちと対決します。
妖気漂うような処刑場で、幽鬼のごとく登場する殺し屋と剣を交えるシーンにしびれます。過去のある主人公が躍動する、本格的な剣豪小説に一気読みできます。
目次
第一章 見参
第二章 鬼面
第三章 刀傷
第四章 血闘
第五章 霧雨
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『蛇足屋勢四郎 困りごと、骨折りいたす』(中村朋臣・光文社文庫)