芝村凉也(しばむらりょうや)さんの文庫書き下ろし時代小説、『長屋道場騒動記(五) 迷い熊奔る』(双葉文庫)を入手しました。
江戸・神田弁慶橋界隈で名の売れた菓子舗『惠比壽屋』の裏手に建つ小さな道場。『信抜流指南』の看板を掲げる、間野生馬の道場です。生馬は大男ながら心優しき剣士で、道場に住み着いていた長屋の子供らから、その外見と名前をもじって“迷い熊”と呼ばれています。
第4巻『迷い熊猛る』では、二十人近くからなる無頼の浪人集団・無人党(ぶじんとう)に道場破りに押しかけられるが、生馬の知人で北辰一刀流玄武館の師範代をつとめる若き剣術の天才、千葉栄次郎が偶然来合わせたことが幸いして、無人党を叩きのめして、弁慶橋の袂に晒しました。
間野道場襲撃には、美作国の十河藩が絡んでいるらしい――岡っ引きの仁蔵から、聞いたこともない西国の小藩の関与を告げられ生馬が困惑する一方で、惠比壽屋の主与惣兵衛には思い当たる節があるようだ。以来、生馬を避けるように密かに何かを探る様子の与惣兵衛だったが、ある夜、外出したまま見世に戻ってこないという不測の事態が生じてしまう――。心優しき巨躯の剣士「迷い熊」が悪を討つ! 痛快人情活劇シリーズ第五弾!!
(文庫カバー裏の紹介文より)
さて、生馬と与惣兵衛が懇意にしている岡っ引きの仁蔵から、襲撃事件の真相を告げられ、美作国の十河藩が無人党と関わっていることが告げられます。しかしながら、生馬は廻国修行中に美作国に足を踏み入れたことがなく、美作出身と名乗る剣士と立ち合ったこともありません。
一方、与惣兵衛は、十河藩が関わっていると知らされてから、不審な行動を取るようになりました……。果たして、生馬に打ち明けられない秘事があるのでしょうか。
「して、ご用件は」
「不躾ながら先ほどそちらの窓よりお稽古の姿を拝見し、もしできるなられば、より間近からの見学をお許し願えぬかと存じまして――いや、勝手な言い分なのは承知の上。場を改めまして、正式に入門させていただいた上で、ということでもよろしゅうござる」(『長屋道場騒動記(五) 迷い熊奔る』P.31より)
間野道場に、備州三嶽藩の佐々島兵部と名乗る三十歳前後の侍が入門志願として訪れます。ところが、発気流(ほっきりゅう)の抜刀術を遣う佐々島は、生馬が本気でやり合って勝てるかどうかわからないぐらいの実力者でした。
襲撃の影に十河藩の影が……。不審な与惣兵衛の行動、そして過去の因縁が生馬を追い詰めます。謎の入門志願者の存在も気になります。
目次
第一章 入門志願
第二章 昔の罪
第三章 お節介焼き
第四章 凶刃
第五章 告白
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『長屋道場騒動記(五) 迷い熊奔る』(芝村凉也・双葉文庫)(第5巻)
『長屋道場騒動記(一) 迷い熊帰る』(芝村凉也・双葉文庫)(第1巻)