稲葉博一(いなばひろいち)さんの文庫書き下ろし時代小説、『影がゆく』(ハヤカワ時代ミステリ文庫)を献本いただきました。
本書は、ハヤカワ時代ミステリ文庫の創刊3タイトルの一冊。日本の戦国時代に舞台を移していますが、早川書房が得意としている海外冒険小説のテイストを持った作品です。同文庫の存在意義や目指すべき方向性を示しています。
著者は、戦国時代に生きた忍者を主人公にした『忍者烈伝』シリーズで注目される、気鋭の時代小説家です。
落城寸前の浅井家に残る唯一の希望、月姫。その幼き命を奪おうとする魔人信長から姫を逃すため、精鋭の武士と伊賀甲賀忍者が選ばれた。一行は越後上杉家へ向かうべく、険しい山谷を越えるも、秀吉の命を受けた非道な忍び黒夜叉が襲い掛かる。絶対的危機の中、蜂のごとく苦無(くない)を刺す少年忍者・犬丸と美貌の高速剣技の使い手・弁天との邂逅が一行の光明に――死闘につぐ死闘に、血飛沫の花が咲く、超弩迫力の戦国冒険小説!
(本書文庫カバー裏の紹介文より)
天正元年八月、落城寸前の小谷城。浅井長政の弟・政元は、重臣の赤尾清綱と清冬の父子に、六つになる娘・月姫を城より逃がすことを命じます。姫を越後上杉家に向けて、清綱は選び抜いた七人の武士を護衛につけ、さらに甲賀と伊賀の忍びを加えて決死の脱出行が始まります。
武士のうち、二人の若武者は別行動をとって、月姫の保護を歎願する密書を携えて上杉家に属する山本寺景長の元に向かいます。
一方、羽柴秀吉配下の忍び・黒夜叉は、一団の行方を掴み、襲い掛かる機をうかがっていました。この構図に、伊賀の忍び・弁天や少年忍者・犬丸、真田忍びなど、多彩な登場人物が絡み、敵味方入り乱れて死闘を繰り広げていきます。
次々と登場する忍びたちの存在感に圧倒されながらも、物語の世界に引きずり込まれていきます。
平素は農業(小作人)や林業、あるいは職人や巫女として普通に暮らしを立てながら、それでは生計立ちゆかず、厳しき忍びの業を口伝によって、我が身と精神に覚えさせ、命の危険も顧みず、群雄割拠の世の陰に、いざとばかりに身を投じ、人知れず活躍する忍者たち。一切の私慾を禁じ、己をつよく戒めて、一片の功名する求めず、わずかばかりの足跡残し、時代の陰に消えていった異能の人々。
(「ハヤカワミステリマガジン」2019年11月号 『影がゆく』刊行記念エッセイ P.26より)
著者の稲葉博一さんは、忍びたちに魅了されて、大いに影響を受けた先人作家たちの忍者たちへのオマージュとして本書を書いたと、執筆動機を著されていました。
★目次
一幕 運命
二幕 小僧
三幕 脱出
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『影がゆく』(稲葉博一・ハヤカワ時代ミステリ文庫)
『忍者烈伝』(稲葉博一・講談社文庫)