荒崎一海(あらさきかずみ)さんの文庫書き下ろしシリーズの第四弾、『九頭竜覚山 浮世綴(四) 小名木川(おなきかわ)』(講談社文庫)を入手しました。
主人公の九頭竜覚山(くずりゅうかくざん)は、出雲国松江藩十八万六千石松平家の食客のような存在で、兵学者です。城主出羽守治郷の気まぐれで参勤の供に加えられて江戸へ出て、下命により料理茶屋の用心棒として深川・門前仲町の町家に暮らすことになりました。
学問一筋の堅物であることを承知の治郷の戯れにより花街に放り込まれた覚山だったが、深川一の名妓米吉に押し倒されて、我を失い男女の仲になり、男のけじめとして米吉(よね)を妻に迎えました。
元柳橋芸者ばかりが店子の貸家をいとなむ信兵衛が、若い囲い女と死んでいるのが見つかった。相対死か殺しか、北町奉行所定町廻りの喜平次は、覚山に疑念を持ちかける。一方、人気芸者友助に惚れている船頭の松吉は、落籍話を耳にしてすっかり落ち込むのだった。深川人情シリーズ第四弾!
(本書カバー裏の紹介文より)
武芸の腕が立ち、知識が豊富で洞察力に優れた覚山は、料理茶屋の用心棒をつとめて花街の治安を守るかたわら、北町奉行所定町廻りで本所深川が持ち場の柴田喜平次ら町方が扱う殺人事件に協力もします。
今回も、元芸者ばかりが店子の貸家を営む男が、娘ほど若い店子の女と死んでいるのが見つかった事件について、喜平次から覚山にもたらされます。
複雑に絡み合った殺人が連続して、謎が深まるばかり。覚山は真相を突き止められるのか。結末が気になり、一気読みしたくなる作品です。
本書の魅力は、謎解きに加えて、覚山の立ち回りの痛快さ、そして、水路に囲まれた江戸・深川の情緒が存分に楽しめる点が挙げられます。
目次
第一章 謎の死
第二章 落籍
第三章 法要
第四章 後手
第五章 義理立て
あとがき “おなき”と“おなぎ”
あとがきで著者は、小名木川に“おなき”とふりがなを振った理由を説明しています。江戸の文化や風習、史実を大切にする著者のこだわりが伝わってきて興味深く読みました。
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『九頭竜覚山 浮世綴(四) 小名木川』(荒崎一海・講談社文庫)(第4弾)
『九頭竜覚山 浮世綴(一) 門前仲町』(荒崎一海・講談社文庫)(第1弾)