東北地方太平洋沖地震と、それにともなって発生した原発事故、日本を未曾有の大災害が襲っている。地震大国に生きるわれわれにとって乗り越えなければならない試練である。こうした非常事態だからこそ、人間として本性が問われる局面である。
海外メディアは、被災者の忍耐強さと秩序立った様子に驚きと称賛の声が上がっているが、その反面、原発事故の事態悪化につれて、悲観論も目立ってきている。
そしてこれから、日本人の真価が問われる。世界が注目する中で、大災害を乗り越えて世界で一番いい国を作って行かなくては。そのためには明日に向かって強い思いをもつことが必要であろう。
そんな折に、安部龍太郎さんの『葉隠物語』を読んだ。『葉隠』は、佐賀鍋島藩藩主三代(直茂・勝茂・光茂)と家臣たちの言行録である。鍋島藩藩士山本常朝が武士としての心得(武士道)を説き、弟子の田代陣基が記述したものである。
- 作者: 安部龍太郎
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- メディア: 単行本
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- 作者: 田代陣基,山本常朝
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『葉隠』というと、「朝毎に懈怠なく死しておくべし」とか「死ぬことと見つけたり」という文言が有名で、過激な死生観だけがクローズされることが多い。(といっても、私自身、原典を読んだわけではないので偉そうに言えないが…)
『葉隠』から題材を取った作品では、不世出の時代小説家・隆慶一郎さんの『死ぬことを見つけたり』という傑作がある。鍋島武士が葉隠精神を発揮して、縦横に暴れまわ痛快な物語。安部龍太郎さんは、病床の隆さんが「最後に会いたがった作家」という伝説を持っている。『葉隠物語』は「月刊武道」という武道専門雑誌に連載された小説でもある。
- 作者: 隆慶一郎
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『葉隠物語』は、序章と終章、二十三話から構成され、最初に『葉隠』の一節がテキストとして引用され、その後に藩主と藩士たちの物語が綴られていく構成になっている。一話は短いが趣きがあり、葉隠精神が横溢されていて面白い。
話は年代順になっているので、藩祖から三代の鍋島藩の歴史がよくわかる。それぞれの藩主や曲者ぞろいの家臣たちが個性的に描かれている。鍋島武士の力を発揮する場であった、島原の乱も登場する。途中からは山本常朝が登場し、主人公役を務める形になり、その言行が生き生きと描かれ、さらに共感を持って読める。
さて、「死ぬことと見つけたり」は、死ぬことそのものではなく、日々死ぬために生きることである。日々死身になることで、怖いものも欲もなく、冷静に物事を見て、誰もが納得する処置を取れる、境地をいう。
命を懸けた覚悟ある生き様こそ、人の命が輝くことであり、本書が伝えたかったことである。『葉隠物語』はいつ読んでも示唆に富み、面白く読めるはずだが、未曾有の大災害に見舞われ、日本人として真価が問われる今、ぜひ読んでほしい一冊である。
みんな、がんばろうぜ。