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陸奥守と蝦夷の対立激化、物語は陸奥へ

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つい先日、高橋克彦さんの『風の陣 [風雲篇]』を、単行本で読み終えたばかりだったが、文庫版も10月15日に創刊したPHP文芸文庫の一冊として登場した。

風の陣 風雲篇

風の陣 風雲篇

風の陣【風雲篇】 (PHP文芸文庫)

風の陣【風雲篇】 (PHP文芸文庫)

さて、『風の陣 [風雲篇]』は、シリーズの第四弾にあたる。

神護景雲四年(770)、称徳天皇が重い病に罹って体調を崩される。和気清麻呂が宇佐八幡より託宣を持ち帰り、皇位を狙った道鏡の野望を阻止してから、わずか半年後のこと。道鏡との蜜月関係にも翳りが見え始め、その流れを感じ取った藤原一族が動き始める。

物部天鈴は、藤原一族の長・左大臣藤原永手と右大臣吉備真備らを巻き込んで、道鏡に叛旗を翻すことを画策する。折りしも道鏡の弟・弓削浄人が百済足人を使って劣勢を挽回しようとしているのに気付く。

一方、陸奥では黄金の採掘量を増やすことを命じる陸奥守・石川名足と、陸奥守を殺すと息巻く蝦夷たちの間で、一触即発の状況に…。

タイトルどおり、物語は風雲急を告げる展開になってきた。『風の陣』は、橘奈良麻呂の乱、藤原仲麻呂(恵美押勝)の乱、道鏡の台頭と、これまで、平城京の内裏での権力闘争を描いてきたが、四巻目にしてようやく陸奥が描かれるシーンが増えてきた。

もっとも、そのおかげで、奈良時代後半の歴史を学ぶことができて、少し理解できるようになった。

平城京での主人公が道嶋(牡鹿)嶋足と天鈴であるのに対して、陸奥での主人公は、蝦夷を率いる若きリーダー伊治鮮麻呂(これはるのあざまろ)である。

中央での権力抗争を尻目に、遠く離れた陸奥の地で、出世の足がかりと蓄財を図って、黄金の採掘量を倍に増やそうとして、蝦夷を虐げる陸奥守。鮮麻呂が立ち上がる日は来るのか?

 

「おれたちは本当に蝦夷のためだけに戦っているのか?」

「当たり前だ。朝廷での昇進が望みではあるまい。おれだとて銭儲けのためではないわ」

「そう信じてきたが……鮮麻呂の言葉で自信を失った。なぜおれは蝦夷を人とおもっておらぬ者らの中で気にせず生きていられる? なぜ蝦夷は違うと言い張ってこなかった?

(『風の陣 [風雲篇]』P.172より)

陸奥で蝦夷人たちとの意識の違いに戸惑い、説得に失敗し、自信を失う嶋足と天鈴。主人公が嶋足から鮮麻呂にシフトしていく。物語の後半では、坂上苅田麻呂の子・田村麻呂と蝦夷の長の阿久斗の子・阿弖流為(あてるい)が馬の競走をするシーンが描かれていて、今後の関わりを暗示させる。

■目次

荒れ風

風見

風塵

風哭き

散り風

這い風

遠き風

風袋

隠れ風

弩風

風送り

あずま風

風渡り

逆風

渦風

初風

風揺れ

底風