上田秀人さんの『継承 奥右筆秘帳』を読んだ。幕府の奥右筆組頭・立花併右衛門と隣家の旗本の次男坊・柊衛悟(ひいらぎえいご)が活躍する人気時代小説シリーズの第四弾である。この「奥右筆秘帳」シリーズは、既刊の3タイトル(『密封』『国禁』『侵蝕』)で『この文庫書き下ろし時代小説がすごい!』に掲載されたランキングで第一位を獲得している。本書の帯にも「第一位最新作」の文字が誇らしげに書かれていた。上田さんの作品はいずれも、一級の時代小説エンターテインメントが楽しめて、その評価については異論のないところだ。
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この文庫書き下ろし時代小説がすごい! 時代小説愛好会が選ぶベストシリーズ20
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寛政九年(1797)三月、十一代将軍家斉の四男で、御三家の尾張家の養子となった敬之助が死去した。奥右筆組頭の併右衛門は、老中の太田備中守資愛(おおたびっちゅうのかみすけよし)より呼び出しを受けて、「幕府や皇統で、正室との間にできた子供を養子に出した故事を見つけだせ」と命じられる。一方、柊衛悟は、大久保道場の師範・大久保典膳より涼天覚清流の免許皆伝を許されることとなった。
そして、尾張家の後継をめぐってさまざまな思惑が交錯する中、江戸城の御用部屋に駿府城代から急報が届く。神君家康の書付が新たに見つかったという。その真贋鑑定のために、併右衛門は駿府に向かうことに…。
このシリーズの最大の魅力は、幕府のあらゆる文書が集結し、その管理と作成を行う「奥右筆」という役目に着目したこと。機密の中枢にあるために、さまざまな事件や陰謀に巻き込まれることなる。そして、本シリーズでは、幕府を揺るがすような事件が毎回描かれていて、そのスケールの大きさがエンターテインメント度を高めている。『密封』では田沼意知刃傷事件、『国禁』では津軽藩の石高上げ願いの不審、そして本書では神君家康の書付と…。
官僚で文の人、併右衛門に、衛悟の剣を組み合わせたコンビの妙も面白い。歴史をめぐる知的好奇心を満たしながら、迫力のある剣戟シーンでスカッとした気分になれる。また、敵役である冥府防人(めいふさきもり)の存在もファンにはたまらないところ。
しかも、本編では、併右衛門が家康の書付の真贋を鑑定するために駿府行くことになる。箱根を越えて東海道の旅が描かれていく。しかも遊山の旅ではないので、途中には何が待ち構えているかわからない、危険もいっぱい。四作目で、主人公を旅に出した作者の物語設定はうまい。
読み終えたばかりだが、次回作が待たれる。
おすすめ度:★★★★