今もっとも、次回作が楽しみなシリーズの一つに、「兵庫と伊織の捕物帖」がある。小松左京賞受賞作家の伊藤致雄（いとうむねお）さんの時代小説シリーズである。『吉宗の偽書』『蜻蛉切り』に続くシリーズ第三弾の『吉宗の推理』も何とも魅力的な作品に仕上がっている。
- 作者: 伊藤致雄
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2007/11
- メディア: 文庫
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: 伊藤致雄
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2008/02
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
- 作者: 伊藤致雄
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 2008/06
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
八代将軍吉宗は、少年時代に出会った謎の姫君の正体について思い悩んでいた。そんな折、陸奥の譜代大名、大門家の長男の訃報が届く。吉宗は、大門家の当主の正室が、実はあの姫君ではと考えていたのだ。一方、江戸に向かった大門藩士の轟小六は、下野国の芦野宿で、奇妙丸と男装の女に勝負を挑まれる。小六は、直心影流の二宮道場で、幕府目付の天童兵庫、南町奉行所定町廻同心の本山伊織と同門の弟弟子で、剣の遣い手だった。その小六が江戸到着後にいずこかへ姿を消してしまった…。
このシリーズの好きなところは、主人公の兵庫と伊織の活躍ぶりもさることながら、物語の狂言回し的な存在として、将軍吉宗を配しているところにある。ときには事件をかき回す、はた迷惑な存在であるが、言い出したら聞かない駄々っ子のような言動がお茶目で魅力的である。こんな吉宗は今まで読んだことがない。とくに今回は、主人公を食ってしまう活躍ぶりで吉宗ファンにはたまらないところ。
かつて出会った美少女や、妖艶な女性・鷹殿、師匠、翁様など、謎のキャラクターが登場するのも、このシリーズの特長。今回新に登場する奇妙丸も伝奇ものの面白さを増幅させる存在になっている。百鬼丸さんの表紙装画も奇妙丸がモデルかな。事件が解決した後も、謎が残って何とも言えない余韻がある。なんとも読了感も心地よくて、第四弾の登場が待ち遠しいところだ。
