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火盗改め長谷川平蔵も登場する、面白時代小説

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楠木誠一郎(くすのきせいいちろう)さんの『逃がし屋 もぐら弦斎手控帳』を読んだ。楠木さんというと、10年ほど前に、明治の文化人・宮武外骨を探偵役にした、『帝都奇譚 紅蓮の密偵』を興味深く読んだことがあり、気になっていた作家の一人である。

逃がし屋─もぐら弦斎手控帳 (二見時代小説文庫)

逃がし屋─もぐら弦斎手控帳 (二見時代小説文庫)

「もぐら弦斎手控帳」シリーズの第一弾にあたる、本編の主人公・一文字弦斎は五年半前まで、元南町奉行・山村信濃守良旺(やまむらしなののかみたかあきら)直属の密偵だった。探索中に盗賊一味に襲われ親友で同僚の久間十兵衛を失い、自身も小名木川に落ちて記憶を失う。現場に居合わせた夜鷹のお蔦に助けられて、亀戸天神近くの長屋に運ばれ、そこで自分に関することは思い出せないが読み書きはできたので手習師匠として長屋に暮らしていた。ある日、長屋の棒手振の仙次から、本所深川のなめくじ長屋で一人の老人が自殺に見せかけて殺されたという。その老人は、久間兵右衛門といい、亡くなった親友の父親だった。兵右衛門が亡くなった長屋には、娘で十兵衛の妹・お咲がいた。故人の遺品の中に、旧友の捜査日誌があった。

タイトルにある「逃がし屋」は、火付盗賊改から目をつけられている盗賊たちを江戸から逃がす存在。天明八年(1788)十月に、長谷川平蔵が火付盗賊改に就任してから、大物の盗賊たちが盗みの後で次々に姿を消した。火付盗賊改が密偵を放っていたにもかかわらず、その密偵は殺され、盗賊たちは江戸から姿を消した。弦斎は、旧友の仇を討ち、逃がし屋の正体に迫るべく探索を始める。その探索ぶりがハードボイルドなミステリータッチで、池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』シリーズにもつながる面白さがある。

新装版 鬼平犯科帳 (1) (文春文庫)

新装版 鬼平犯科帳 (1) (文春文庫)

物語の舞台は、寛政五年十二月ということで、旧上司の山村良旺をはじめ、長谷川平蔵や将軍徳川家斉なども登場して、この時代が大いに楽しめる。二作目の『ふたり写楽』が発売されているので、こちらもぜひ読みたいところ。

ふたり写楽 もぐら弦斎手控帳2 (二見時代小説文庫)

ふたり写楽 もぐら弦斎手控帳2 (二見時代小説文庫)