江戸歌舞伎に題材をとった捕物帳

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近藤史恵さんの『にわか大根』を読んだ。『巴之丞鹿の子』『ほおずき地獄』に続く、江戸歌舞伎の町猿若町の芝居関係者が頻繁に登場する捕物小説「猿若町捕物帳」の第三弾である。前2作が長篇だったのに対して、今回は連作形式で「吉原雀」「にわか大根」「片陰」の3つの中篇を収録。

にわか大根―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

にわか大根―猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

巴之丞鹿の子―猿若町捕物帳 (幻冬舎文庫)

巴之丞鹿の子―猿若町捕物帳 (幻冬舎文庫)

主人公の南町奉行所定廻同心・玉島千蔭(たましまちかげ)は、役者ばりの美男子だが堅物で、江戸っ子なのに歌舞伎も酒も嫌いな変わり者。ある事件を通じて知り合った、人気女形の水木巴之丞と吉原の遊女・梅が枝の協力を借りながら難事件を解決する。

「吉原雀」流行病でもないのに、ひと月の間に異なる女郎屋で三人の遊女が病で死んだ。そのうちの一人が病の床で何度も繰り返し「雀」とうわごとを言っていたという…。

「にわか大根」市村座の人気女形の村山達之助が久々に上方から帰ってきて、狂言芝居を演じたが、所作はたどたどしく台詞もまずくて下手な役者に変わっていた。客席からは「にわか大根」の大向こうがかかった…。

「片陰」隅田川の船の上で芝居を演じる船芝居の役者・片岡円蔵が両国の見世物小屋の近くの天水桶の中で死体で見つかった。相方の女形・谷与四郎に殺人の嫌疑がかけられたが…。

「吉原雀」で義母と折り合いが悪い商家の娘・おふくが登場し、千蔭とおふくの仲が進展するかどうかが、3篇を通じての趣向となっている。おふくは、千蔭の義母のお駒の従姉妹。お駒は千蔭の父で隠居の千次郎の女房で、千蔭にとっては年下の義母。物語は千蔭に付いている小者(岡っ引き)の八十吉の視点から描かれることが多い。

松井今朝子さんとは、また違った視点から江戸歌舞伎の世界が描かれていて興味深いシリーズ。千蔭と彼を取り巻く登場人物たちのやり取りが魅力的で、トリックや謎解きの面白さや江戸情緒も堪能できる大好きな作品の一つである。