歴史家の安藤優一郎さんの『幕臣たちの明治維新』を読んだ。江戸研究のスペシャリストである安藤さんがタイトルに明治とつく読み物を出されると聞いて、専門の範囲を広げられたのかと思い、最初はいささか奇異な印象を持った。
- 作者: 安藤優一郎
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/03/19
- メディア: 新書
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(前略)
しかし、官軍つまり明治政府に反旗を翻したのは、徳川家臣団のごく一部に過ぎなかった。その大半は、徳川家の恭順路線の方針に従い、徳川幕府から、薩摩・長州藩を主軸とする明治政府への政権交代を受け入れるのである。
徳川家の家臣(幕臣)の数は、旗本・御家人を合わせると三万人強にものぼった。家族や家来たちを含めれば、その数倍。
ところが、時代劇はもとより、歴史の教科書でも、明治に入った途端、徳川家臣団についての叙述はなくなり、歴史の表舞台から消えてしまう。消されてしまったというのが真実に近いだろう。
(『幕臣たちの明治維新』P.4より)
まえがきを読んで、なぜ、筆者があえて明治をテーマにしたのかがわかり、彰義隊や土方歳三のように、官軍に抵抗した者以外の大多数の徳川家臣団の行方が気になった。
本書では、将軍の影武者役を務める御徒の山本政恒が明治末に編纂し発表した、自分史『政恒一代記』(『幕末下級武士の記録』)などの資料を引用しながら、激動の幕末や明治初年の静岡藩の様子などを明らかにしていく。とくに徳川宗家十六代の徳川家達(いえさと)が駿河・遠江国などに七十万石で封ぜられた静岡藩の存在は興味深かった。
また、明治二十二年八月一日に、東京開市三百年祭が挙行されて、早くも江戸ブームが起こったというのが面白かった。明治維新後、文明開化の名の下に、伝統文化の破壊が進み、その中で江戸の遺産が消えていった。無批判に西洋文化を受け入れたことの弊害のせいである。それは言い換えると、無批判に江戸に理想像を見て再評価するあまり、明治の腑の部分を強調することも、同じく江戸や明治の実像を歪めてしまうことになるという、著者の指摘は江戸ブームに浮かれているわれわれへの警鐘ともいえるだろう。
松井今朝子さんの『幕末あどれさん』がまた読みたくなった。
- 作者: 松井今朝子
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2004/02/03
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