江戸から離れて京を舞台とした時代小説が読みたくなって、久々に澤田ふじ子さんの『狐官女(きつねかんじょ)』を読んだ。『大盗の夜』『鴉婆』に続く「土御門家・陰陽事件簿」シリーズの第三弾である。
- 作者: 澤田ふじ子
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- 作者: 澤田ふじ子
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主人公は、安倍晴明を祖とする陰陽頭の土御門泰栄に仕える譜代陰陽師の笠松平九郎。譜代陰陽師とは、安倍晴明が駆使していた式神を祖としている。陰陽師と言っても、夢枕獏さんの『陰陽師』シリーズのように、平安時代を舞台に、闇にうごめく妖魔を鎮め、怪異を解き明かすといったヒーローではない。史実に即して描かれている。
- 作者: 夢枕獏,村上豊
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天和三年、土御門家は江戸幕府から朱印状を与えられて全国の陰陽師支配を許された。陰陽師は易者・売卜・人相見などとして、庶民の人生相談に乗り、悩みを解決し、結果事件の勃発を未然に防ぎ、江戸時代の治安を維持する一端を担っていたのである。
したがって、物語は澤田さんが得意とする京を舞台にした一話簡潔の連作形式の市井小説の形態になっている。この巻を通して、五条・鍛冶屋町の長屋に住む、美濃大垣藩浪人の小藤左兵衛が新キャラクターとして、物語の興趣を高めている。左兵衛は血のつながらない少女のお妙を育てながら、扇骨を削る内職をし、ときには無許可の易者(売卜をするには土御門家の鑑札が必要だった)として生活費を稼いでいた。貧しい生活の中にも、文机の上には読み古された『徒然草』『閑吟集』『沙石集』などが積み重ねられていた。
平九郎の上司である、土御門家の家司頭・赤沼頼兼が仙洞御所に召されて御所の女官の不審な動きを探るように命じられた表題作をはじめ、平九郎の古傷を題材にした「畜生塚の女」など江戸時代の京の文化と人情が堪能できる七話を収録。人間のもつ哀しみや心の闇を描いたものもあるが、読後感のよさが残った。