何ともウカツだった。松井今朝子さんの『銀座開化おもかげ草紙』を読んでいたが、終章近くまで『幕末あどれさん』の続編であることに気づかなかった。読み始めたときから、主人公久保田宗八郎の名前とキャラクター設定に、どこかなじみがあるような既視感を抱いていたが、なぜ思い出せなかったのだろうか。
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『幕末あどれさん』を読んだのが1998年だったから10年ぶりということがあるにしても、幕末青春小説の傑作であり、もう一度読みたいと思っていた作品だけに、自分自身のことながら情けないなあ。主人公の宗八郎も三十を迎えて、隠棲生活でヒモのような暮らしぶりで、ヒロインの鵜殿綾と出会うまで青春っぽさを失ってしまったことも原因かもしれない。この物語の女性たちがみな凛としていて実に魅力的だ。
そういう意味でいえば、『銀座開化おもかげ草紙』は再生の物語ということができるかもしれない。この作品のもうひとつの魅力は、明治初期の世相がビビッドに描かれていることである。江戸から明治へ、社会、仕組み、価値観などのドラスティックな変化が当時の人たちにいかなる影響を与えたのかは興味が尽きないところ。宗八郎がどのように明治という時代を生きていくか見守っていきたい。