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新人時代小説、伊達虔さんに注目

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伊達虔(だてけん)さんの『鳥刺同心 晩秋の稲妻』を読む。蓬田やすひろさんの表紙の装画に惹かれて手に取る。

鳥刺同心―晩秋の稲妻 (学研M文庫)

鳥刺同心―晩秋の稲妻 (学研M文庫)

著者の伊達さんは、著者紹介によると、広島県出身、第八回歴史群像大賞最優秀賞を『逃亡者市九郎』で受賞された新進の時代小説家。1938年生まれというから、加藤廣さんばりに年長者の新人作家というところか。しかし、豊富な人生経験の末の著作活動ということで、加藤さんをはじめとし、隆慶一郎さん、池宮彰一郎さん、平山壽三郎さんら、デビューしたときの年齢が高い作家は、最初から高水準の作品を発表される。

この伊達さんの作品もそのパターンで、バツグンに面白い時代小説に仕上がっている。

主人公の小鳥遊篤右衛門(たかなし・とくえもん)は、元御鳥見役で三十六歳。三年前の元禄六年にすべての御鷹場が完全に閉鎖となった際に役替えとなり、今は無役の小普請。「小鳥遊」と書いて「たかなし」と読むのが面白い。ちなみに「一」と書いて「にのまえ」と読む人物も物語の後半で登場する。

物語の背景に、五代将軍徳川綱吉時代の、“生類憐れみの令”のもとでの庶民と幕府役人の暮らしが描かれていて、それだけでも事件が起こりそうな気配がぷんぷんしていて楽しい。生類憐れみの令を逆手にとって、卑劣な脅迫行為を続ける幕臣に、腐敗を憎む篤右衛門が敢然と立ち向かう…。

御鳥見役というと、諸田玲子さんの『お鳥見女房』が想起されるが、あちらは天保期が舞台で、こちらの『鳥刺同心 晩秋の稲妻』は元禄時代を丹念に描ていて興味深い。そういえば、えとう乱星さんの『ほうけ奉行』がちょうど同じ時代の鷹狩りを仕切る殺生奉行を描いていたなあ。

お鳥見女房 (新潮文庫)

お鳥見女房 (新潮文庫)

シリーズものになりそうなので、御鳥見役から転職した篤右衛門の活躍が読めそうな次回作が大いに期待される。