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粋で凝った職人技が光る、「宝引の辰捕者帳」

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泡坂妻夫さんの『鳥居の赤兵衛』を読む。北町奉行所同心・能坂要のもとで働く腕利きの岡っ引き、神田千両町の宝引の辰親分が活躍する捕物シリーズ「宝引の辰捕者帳」の第5弾である。表題作のほかに、「優曇華の銭」「黒田狐」「雪見船」「駒込の馬」「毒にも薬」「熊谷の馬」「十二月十四日」の全8編を収録。

鳥居の赤兵衛―宝引の辰捕者帳 (文春文庫)

鳥居の赤兵衛―宝引の辰捕者帳 (文春文庫)

「宝引の辰捕者帳」は、『鬼女の鱗』(第一作)、『自来也小町』(第二作)、『凧をみる武士』(第三作)、『朱房の鷹』(第四作)を出ている(絶版か品切れになっていて新本で入手が困難なタイトルもあるようだ)が、一話完結の連作形式で過去の事件が関連することは少ないので、どこから読んでもよい。

自来也小町―宝引の辰捕者帳 (文春文庫)

自来也小町―宝引の辰捕者帳 (文春文庫)

「宝引(ほうびき)」と“二つ名”で呼ばれるのは、御用のかたわら「宝引」を作っているからである。「宝引」とは、束ねた紐を客に引かせ、当たりが付いた紐を引いた者に景品を出す福引の道具のこと。「駒込の馬」では、宝引売りの男が語り手となり、宝引の様子や辰の活躍ぶりを語っている。

「宝引の辰捕者帳」の特徴の一つは、物語ごとに語り手が変わることである。事件の当事者というか、一番近くで見ている者が事件について話すので、臨場感があり、また、一話一話彩りが変わって興趣がつきない。泡坂さんは本業で紋章上絵師をされているので、本のカバーに文様を上品に使われているほか、物語の中でも「家紋」が重要な役割を演じることが多い。「黒田狐」も家紋が事件解決のヒントとなっている。

都筑道夫さんが亡くなってから、トリックに重きを置く時代ミステリーを書ける人がいなくなったと思っていたが、泡坂さんはトリックを大切にし、江戸の粋を感じさせる貴重な作家の一人である。

ちなみに「宝引の辰捕者帳」は1995年にNHKで、小林薫さんが辰親分を演じて、TV時代劇化されている。

宝引の辰捕者帳 - Wikipedia