佐伯泰英さんの『烏鷺・密命・飛鳥山黒白』と『初心 密命・闇参籠』を続けて読んだ。佐伯時代小説の99冊めと100冊めにあたる作品でもある。
- 作者: 佐伯泰英
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2007/06/12
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『烏鷺』では、柳生から江戸に戻る、金杉惣三郎・結衣の父娘が駿府城御定番目付の跡部弦太郎と知り合いになるのがポイント。旗本の嫡男らしくない、闊達な弦太郎が新キャラクターとして、今後このシリーズで重要な役割を演じていくことを期待させる展開が見ものである。また、同じく東海道の旅で惣三郎と親しくなる、渡世人の今市の円蔵も魅力的な存在である。
続く『初心』は、シリーズ十七作目だが作者がさまざまな意味を込めてタイトル付けした、重要な作品といえる。惣三郎の息子で武者修行中の清之助は、若狭国小浜から三方五湖、丹生、越前国鯖江と北陸を行く。そして、武者修行三年四月余りで、「剣術家としての生き方」を会得していたが、そのような術をいったんこそげ落として「初心」に戻り、新たなる修行の道に入ることを考えて、永平寺に参禅することになる。
この作品に懸ける作者の思いは、あとがきからビンビンと伝わる。あとがきを読んで初めて、佐伯さんが今年の三月に体調を崩されたことを知った。職人作家と自らおっしゃって、毎日決められたペースで作品を書き続けてきたことによるストレスが原因らしい。三月といえば、三越の「東都のれん会」のイベントでお眼にかかったのは、病後のことだろうか?
もっともっとと、新作を欲してきた読者の一人ではあるが、これからは新作発表のペースは落ちたとしても、ずっと佐伯作品を読み続けていたいというのが一番の願いである。体に気をつけて末永く楽しませてほしい。
解説で文芸評論家の縄田一男さんが、せっかくの文庫書き下ろし時代小説ブームを一過性のものにしないために、出版社各社の協賛で、年に一回、その年の最優秀作品と新人に与える“文庫書き下ろし時代小説賞”の創設を提案されていた。同感である。