佐藤雅美さんの『江戸からの恋飛脚』を読んでいる。昔の時代劇映画のようなノーテンキに明るいタイトルだなあ。
- 作者: 佐藤雅美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/08
- メディア: 文庫
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題名のことはともかく。この本に心中について書かれていた箇所があり、興味深かった。
心中の刑罰はきびしい。心中にあこがれのような感情を抱くのか、叶わぬ恋の二人が心中したという話を耳にして、つられてふらふらという心中がしばしばあったからで、またお上はわりとこういうことにお節介を焼いたからでもある。
「不義にて相対死(あいたいじに)いたし候もの」
つまり心中は、
「死骸取捨、弔わせ申す間敷く候」
と『御定書』にあり、田宮格之進のように片割れが生き残った場合、
「下手人」
死罪。ちなみに、双方が生きていれば、
「三日間晒(さらし)、非人手下」
江戸なら日本橋の高札場の下に、双方ともに三日間、さらし物にされたうえで、非人の手下とされた。
(『江戸からの恋飛脚』P.196より)
現在では、犯人と同じ意味で「下手人」という言葉が使われることが少なくない。しかし、本来の意味は、自ら手を下して人を殺した者のこと(殺人犯限定)、あるいは斬首刑をあらわす。したがって、窃盗や傷害の犯人には使わない。
主人公の八州廻りの桑山十兵衛は、思いを寄せる登勢のために、心中の嫌疑がかけられた登勢のおいの田宮格之進を救うために、上州玉村宿へ向かった……。
コメント
確か、同氏の「物書き同心」シリーズの中でも紋蔵が「下手人」の言葉を解説する段があったはずです。
その中では、当時から死刑と犯人の両方の意味で「下手人」という言葉が使われていて紛らわしいということでした。
佐藤雅美さんの作品は、江戸トリビア的なところがあって、面白いですね。
そうですね。佐藤さんの作品は、時代小説用語集的なものよりも用語解説が詳しいので、ネタ元として使わせていただいています。
じゃあ窃盗や障害の犯人はなんと呼んだんですか?
それにしてもなんで心中の刑罰はそんなに厳しかったのでしょうね? 無念にも自分だけ生き残ってさらし者になったら悲惨ですよね。
窃盗犯や傷害犯については、○○犯といったような特定の言い方はないようで、時代小説ではそのまま犯行内容で表しているケースを見かけます。盗人、追剥、追落、勾引、女犯……。幕府は美化されて流行することを恐れて、「心中」という言葉の使用を禁じて「相対死」という言葉に代えたほど。