花家圭太郎さんの『青き剣舞』を読んでいる。主人公の桑原玄二郎と妻のお芙卯は、秋田から江戸に出て、室町三丁目と町年寄喜多村彦右衛門屋敷の間、浮世小路の奥に住まいを借りている。現在の日本橋界隈に相当する、江戸の中心に暮らしているせいか、江戸時代に創業し、現在も盛業な老舗のいくつかが物語に登場する。
- 作者: 花家圭太郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/07
- メディア: 文庫
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「おお、そうであったか。よしっ、いまから買うてくる。まだ神茂(かんも)は店仕舞いしておるまい」
玄二郎が勢いをつけて立つ。神茂は浮世小路の目と鼻の先、小田原町にある。
(P.117より)
ちなみに、神茂は元禄元年の創業だそうだが、当時は神崎屋と名乗っていたようだ。
はんぺんの神茂は、当初は神崎屋と名乗っていたが、嘉永年間に神崎屋十三代目新右衛門が、茂三郎と改名して以来、代々「茂三郎」を襲名している。屋号の神茂は、明治になってから頭文字をとって神崎屋から神茂に変更したと思われる。
(「東都のれん会」のウェブサイトより)
東都のれん会
ほかにも、老舗がいくつか出てくる。
「ご馳……とまではゆくまいが、肴はそなたの背黒にわしのはこれ、笹乃雪じゃ」
「へっ、笹乃雪……でございやすか。あすこの豆富は江戸中の評判で、朝のうちに売り切れちまうってえ話でございやすが」
(P.120)
豆富料理 笹乃雪
大坂屋伊勢大掾は小網町にある。南伝馬町の塩瀬と並んで、江戸一番の菓子店である。
(P.202)
大坂屋伊勢大掾は戦災などの関係で三田に店を移して秋色庵大坂屋として現在も商いを続けている。また、六百五十年の歴史をもつ塩瀬は今も「志ほせ饅頭」など伝統の味を守っている。
秋色庵大坂屋
塩瀬総本家ホームページ
江戸からの老舗を時代小説の中に取り入れて描くことは難しいが、現在のわれわれにとっては、老舗の味や技を通じて江戸を追体験できる貴重な機会なので、ぜひ、登場させてほしいと思う。
コメント
塩瀬は足利将軍の頃からですよね。荒俣宏さんも「にんべん」の話を描いてました。「男に生まれて」だったと思います。
あきさん、情報提供ありがとうございます。『男に生まれて 江戸鰹節商い始末』は、興味深い題材なので、読んでみようと思います。