和田はつ子さんの『花びら葵』を読む。『南天うさぎ』『手鞠花おゆう』に続く、江戸の歯医者・藤屋桂助が活躍する捕物帳「口中医桂助事件帖」シリーズの第三弾。
桂助の患者だった廻船問屋橘屋の娘お八重の死をきっかけに、橘屋は店を畳むことになる。背後には、桂助の家族ともかかわりのあった両替商岩田屋勘助の存在が浮かび上がる。自分の商売を広げるためには、いかなる汚い手も使うことも厭わない岩田屋が……。
このシリーズでは、桂助の明晰な推理ぶりを描くとともに、桂助の出生にまつわる秘密も少しずつ仄めかされてきた。今回、その真実が明らかになる。それは、将軍家のこれからを左右する重大事であった。そして、その秘密を嗅ぎつけた岩田屋と対決することになる。物語はいよいよ佳境に。
作品の背景で描かれる江戸時代の歯医者事情が面白く、貧しい庶民でも身分の高い幕府の要人でも、どんな患者にも分け隔てなく真摯に接して、治療する桂助のまっすぐで温かい言動が爽やかで、読み味のいいシリーズである。房楊枝職人の鋼次、医師の娘志保、側用人岸田正二郎、桂助の父・藤屋長右衛門、母のお絹、妹のお房、番頭の伊兵衛ら、桂助を支える登場人物たちもいい味を出している。早く続編が読みたい。
このシリーズで、鶉(うずら)の鳴き合わせ、献上鶉など、鶉を飼う趣味が描かれている。幕末に流行したのだろうか。ちょっと気になった。
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