今井絵美子さんの『雀のお宿』を読んだ。何かマージャンの本みたいなタイトルだが、瀬戸内の一藩(瀬戸藩=架空)を舞台にした連作形式の時代小説。前作の『鷺の墓』に続くシリーズ第二弾であり、武家社会を生きる男女を情感豊かに描く全五編を収録している。藤沢周平さんの「海坂藩」ものを想起させる、下級藩士たちに向ける視線の温かさが好ましい。
表題作の「雀のお宿」は、白雀尼(俗名・桐葉)の庵に、背負い籠に小さな赤ん坊を入れた少女おつゆが現れるところから始まる。やがて、白雀尼の出家の秘密が明らかになる……。
藤沢さんというよりは、女性の生き方を描いた乙川優三郎さんの短篇を彷彿させる作品。
「やさしい男」百三十石の勘定方小頭土方家に婿に入った喜四郎は、家付きの一人娘だった里女に頭が上らなかった。喜四郎は身捨流の遣い手だったが、御前試合で対峙した無外流の一之瀬文哉が試合中に急死したことから運命が変わった……。
ややユーモラスな仕上がりになっているのは、主人公の喜四郎のせいだろうか。
「うずみ」は瀬戸内の郷土食の名称で、小海老出汁の澄まし汁に、里芋、大根、人参、豆腐、春菊、茸を入れたものを、白飯で覆ってしまうというもの。奈々江は、護国社祭の見物の帰りに、近所の人から、三枝由布が首を絞められて殺されたという話を聞いた……。
ミステリータッチのお話。
「孤走」四十七歳の植木奉行配下庭廻り組の門脇又左衛門は、早朝の走り込みを日課にしていた。それは、妻菊名が風邪をこじらせて亡くなった朝もだった……。
反骨に満ちた不器用な男の晩年を描く快作。
「若水」父が自裁したために、家禄を五十石減らされた保坂市之進は、組頭の妾腹の娘で脚の不自由な実久を娶り、今は娘の紀依と祖母の槇乃の四人で暮らしていた。その市之進に本家の太郎右衛門がある相談をした……。
この話の主人公の市之進は、前作『鷺の墓』の表題作と「逃げ水」という話にも登場したおなじみの人物。
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