佐々木譲さんの『幕臣たちと技術立国』を読み始めた。幕末、近代化へ向けて活躍した開明思想をもつ3人の幕臣の事跡を綴った読み物である。明治維新ではなく、開国を期に近代化が始まったという視点は、新鮮であり、かつ十分納得できる。
海防や高性能な溶鉱炉「反射炉」の築造など西洋式産業技術の導入に積極的だった、伊豆韮山代官の江川太郎左衛門英龍の半生について、紹介している。お台場の生みの親でもある彼は、蘭学者の渡辺崋山や砲術家の高島秋帆らと交遊を結び、ジョン万次郎を英語通訳として召し出したという。
本書で、伊豆韮山代官が世襲で代々通称太郎左衛門の名を受け継ぎ、伊豆・相模・駿河・甲斐・武蔵の一部の天領を支配地として、六万~七万石の支配高であった、ということを知った。英龍の祖父の時代に、江川家は家計が破綻し、英龍は奢侈を厳しくいましめ、家臣たちにも分不相応な生活を許さず、質素と倹約を家訓としていたという。
この開明派の江川英龍のライバルとして登場するのが、守旧派の鳥居耀蔵である。耀蔵は、儒学者で昌平坂学問所主宰の林述斎の四男として生まれた幕吏で、蘭学・蘭学者を嫌い、きわめて保守的であった。天保九年に、江戸湾防備計画策定のための備場見分が実施されたとき、正使を務めたのが当時目付の鳥居耀蔵で、副使に抜擢されたのが海防問題に明るい江川英龍だった。
このとき、蘭学者たちの権威と影響力が高まることを恐れた耀蔵は、英龍の備場巡見を妨害する。このあたりからの耀蔵の蘭学者へのいじめぶり、徹底したヒール(悪役)ぶりは松本清張さんの時代小説『天保図録』に描かれている。また、読み返してみたくなった。
幕臣たちと技術立国―江川英龍・中島三郎助・榎本武揚が追った夢 (集英社新書)
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