澤田ふじ子さんの『真葛ヶ原の決闘』を読み終えた。京の人々の安寧を守る祇園社の神灯目付役が活躍する連作捕物小説集で、「僧兵の塚」「真葛ヶ原の決闘」「梟の夜」「鳥辺山鴉心中」の四編を収録。
表題作「真葛ヶ原の決闘」は、弱者に絶えず温かい支援を送る神灯目付役の活躍が光る仇討ち劇。
中川卯之助の父新兵衛は、敵探しに出て十五年、今では病に伏してしまい、やっと見つけた敵から逆に命を狙われていた。父に代わり敵を討とうとする卯之助はわずかに十歳あまり。卯之助の健気さ、新兵衛の無念さに共感した植松頼助、孫市、村国惣十郎の三人の神灯目付役は助太刀を決意する。しかし、敵は卑怯にも六十人もの助勢があった。六十人の敵に、三人の目付役が挑む。目付役が敵討ちの場に選んだのが、真葛ヶ原だった……。
真葛ヶ原とは祇園社の東に位置し、同社の北になる知恩院付近から、現在の円山公園を挟んで双林寺辺りまでをいう。洛中での斬り合いは、京都所司代によって堅く禁じられていて、真葛ヶ原は洛外にあたり、うってつけの場所だった。物語を読んでいて京の地理関係がよくわからず残念になり、江戸時代の京の地図があればなあと思った。『京都時代MAP』がほしくなった。
「梟の夜」では、シリーズで傍役として出てくる人物が殺される事件をめぐって、頼助は、善良なるその人物の死に憤りを覚えて事件解決に乗り出す。事件の背景には、近づく祇園まつりに絡むトラブルが……。
「鳥辺山鴉心中」
祇園社に秘蔵されていた狩野探幽筆の神武天皇東征図が、古びて荒れていたので、経師師(表具屋)へ、補修と表具替えに出されていた。この名画をめぐる人間模様を描く短篇。博打と金の怖さを痛感した。
作者は、あとがきで
日本人にとって京都は〈あこがれ〉の町だが、いまではさまざまな面で俗悪な町に変わってきている。
と、嘆いている。自身が京都を舞台にして時代小説などで描いている情緒豊かな風情は少ないという。
澤田さんは、時代小説を通して、現代社会の問題や病巣をそこに投影し警鐘を鳴らすことで、われわれに
正しく考え行動するように指し示しているように思われる。ここがその作品の美質の一つであろう。
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