昨日、時代小説について語る機会があり、司馬遼太郎さんの作品を敬遠していた理由について尋ねられた。(現在は司馬さんを評価し、その作品をちゃんと楽しんでいる)
サイトを始めた1996年頃までに、司馬さんが描く歴史上の英傑の行動哲学がビジネスマンの模範となったり、エッセーや評論で展開される司馬の歴史観がビジネスマンの教養となったりしていた。新聞や雑誌などのマスコミや大企業の経営者やコンサルタントたちがこぞって、司馬さんの持つ史観を称賛し、現代性や社会性を持ったその文学をして、国民作家へと祭り上げた。
かつて大衆文学と呼ばれていた時代小説は、一部のエスタブリッシュメントのためのものではなく、庶民のためのエンターテインメントであると考えていた。そして池波正太郎さんや藤沢周平さんの作品に描かれる市井の人たちに光を当ててこそ、時代小説の真髄ではないかと思っていた。(自分自身、やや天邪鬼の気質がある)
ところが、2000年以降、TVや映画で池波さんと藤沢さんの作品が相次いでドラマ化されると、二人に人気が集まり、その評価もグンと高くなった。十年来のファンである自分としてもうれしい反面、お二人とも故人であり、新作が読めないことに思い至ると、時代小説の発展にとっていいことだろうかと考えてしまう。
多くの現役の作家の方が時代小説を書き、日々面白い作品が生まれている。もっと、広い視野で多くの作家が描く、いろいろなタイプの時代小説に光を当てていくべきではないかと思っている。それは先物買いというのではなく、面白い時代小説がたくさんをあることを一人でも多くの人に知ってもらうためであり、それは自分自身がより時代小説を楽しむためでもある。
『週刊朝日』(2005年1月7-14新春合併号)の「読者が選ぶベスト歴史・時代小説」の投票結果が紹介されていた。
1 坂の上の雲 司馬遼太郎
2 竜馬がゆく 司馬遼太郎
2 宮本武蔵 吉川英治
4 蝉しぐれ 藤沢周平
5 鬼平犯科帳 池波正太郎
6 徳川家康 山岡荘八
7 新・平家物語 吉川英治
8 樅ノ木は残った 山本周五郎
9 燃えよ剣 司馬遼太郎
10 国盗り物語 司馬遼太郎
投票結果に「週刊朝日」の読者というバイアスがかかっているとはいえ、すべて故人である。しかも、司馬さんの本がベスト10に4作品ランクインするという圧勝ぶりだ。しかし、投票者たちは、最近1年以内に時代小説を読んだのだろうか、きわめて怪しい。
ちなみに、その10年前に行なわれたで、各界著名人300人アンケートによる「時代小説」ベスト10(「週刊文春」1996年8月15日・22日号掲載)は、以下の通りだった。
1 宮本武蔵 吉川英治
2 大菩薩峠 中里介山
3 竜馬がゆく 司馬遼太郎
4 樅の木は残った 山本周五郎
5 半七捕物帳 岡本綺堂
6 鞍馬天狗 大佛次郎
7 鬼平犯科帳 池波正太郎
8 眠狂四郎無頼控 柴田錬三郎
9 徳川家康 山岡荘八
10 赤穂浪士 大佛次郎
一般人はともかく、著名人といわれアンケートの回答を求められる人は、もっと本を読もうよ。影響力があるわけだから。
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