引き続き、乙川優三郎さんの『武家用心集』を読んでいる。前回、藤沢周平さんを想起させると書いてしまったが、「しずれの音」や「うつしみ」、「磯波」のように女性を主人公にした作品では、まったく違う個性や作風を感じる。
藤沢さんが下級藩士の視点から物語を描くことが多いのに対して、乙川さんは女性の視点から描いた作品も少なくない。そうした作品では、男中心で、家というものが拘束力をもった江戸時代という特異な環境下で、悩み葛藤し、ときにはもがき苦しみながらも、自身の生き方を真剣に考える凛とした女性が登場する。
けっして明朗快活でヒーローが活躍するような物語ではないが、主人公たちのもつ、冬の薄日のようなそこはかとないポジティブさ、雪を載せた枝のようなしなやかさに、読後に何ともいえない快い余韻を残す珠玉の作品集である。
以前から気になったことだが、乙川さんは会話文で、「。」の代わりに「、」を使うのはなぜだろうか。
「ご承知の通り、吟味方改役は激務にございます、しかし吟味役に才腕を認められれば勘定組頭へとすすむ道がつづいております、役替えが決まれば身重の妻女と病母を案ずる暇はありますまい」
「それも二戸の都合でござろう、手前に何の関わりがある」
(「しずれの音」P75より)
※しずれとは、「垂れ」と書き、雪が枝などから落ちるときに使うようだ
「、」を使用することで間合いが短くなるせいか、会話文を声に出して読んだときにリズム感が出るような感じがする。
- 作者: 乙川優三郎
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コメント
時代小説好きの方は大勢いらっしゃると思います。自由に意見交換の出来る場を設けて頂けると良いのですが
そうですね。以前に掲示板をやっていたことがあります。その後掲示板荒らしなどが起こり管理しきれなくなって止めています。今なら、mixiとかを使うという手はありそうですね。何か考えてみます。
眼は2週間の使い捨てコンタクトレンズでしのぐことにしました。お気にかけていただき、ありがとうございます。
早速お返事頂戴して嬉しく思います。日本人としての原点に返れるような素敵な掲示板になるといいですね。お目いかがですか?くれぐれもお大事に