小杉健治さんの『二十六夜待』を読了。単行本刊行時のタイトルが『七人の岡っ引き』と付けられたことからわかるように、岡っ引きたちの生態にスポットを当てた短篇捕物小説集である。一話に一人ずつ岡っ引きが登場するので、七話で七人七種の岡っ引き像を見ることができる。
岡っ引きというと、TVドラマ時代劇の影響からか、子分を使って捕物の最前線でがんばる正義の味方というイメージが強い。岡っ引きは町奉行所の同心から手札をもらい、表向きは小者として働く。1カ月に一分(一両の1/4)から一分二朱程度が渡されるが、それで手下の四、五人を使わなくてはならない。いくら人件費が安い時代でも、月2万円から3万1千円程度ではつらいところ。
はじめからソロバンが取れない仕組みになっている。そのため、自然とそこにいろいろな弊害が生まれ、世間から蝮や蛇蝎のごとく嫌われるようになる。そうでなければ、岡っ引きは何か別の商売をやることになる。女房の名で湯屋や蕎麦屋、小料理屋をやったりしている。銭形平次はどうやって生計を立てていたのだろうか?
『二十六夜待』は、見るからに正義の味方然とした岡っ引きは出てこない。いずれも、後ろ暗い人間に目を光らせるかたわら、堅気の人間でも叩けば埃が出るとばかりに、強請りたかりも辞さない凄腕のリアリティのある岡っ引きばかりだ。ある話では主役に、またある話では脇役になりながら、ストーリーを進めていく。
解説の縄田一男さんが「小杉健治ならではの、“泣ける”捕物帳」と激賞されているとおりに、一編一編が完成度の高い人間ドラマになっている。個人的には、「二十六夜待」「島帰り」「形見」の三篇がとくに好きだ。
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