浅田次郎さんの『五郎治殿御始末』を通勤電車の中で読み始めた。浅田さんの作品を読むのは、『壬生義士伝』以来だが、文章を読んでいるうちに、その世界にどっぷり浸れていい。
この短篇集には、明治維新という激動期に、自らの誇りにかけて、武士の時代に幕を引いた侍たちの物語を六篇収録している。浅田版ラストサムライといったところか。
収録作品の一つ、「椿寺まで」
八王子産の反物と横浜の羅紗地を扱う日本橋西河岸町の江戸屋小兵衛は丁稚の新太を供に甲州道中を西に向かっていた。高井戸宿を過ぎて、布田五宿の手前で、浪人者の追いはぎに遭う……。
小兵衛は追いはぎの浪人を脇差で撃退し、懐の巾着を取り出して、浪人に何枚かの紙幣を与えるが、その際のべらんめえな江戸言葉がいい。
「紙っぺらで有難味はねえが、その一枚(いちめえ)は小判の一両だ。傷も医者にかかるほどじゃあるめえ。これに懲りたら金輪際かっぱぎなんぞよしにして、堅気になりな。御一新から六年もたとうてえのに、後生大事(でえじ)にだんびら提げて髷なんぞ結ってたって、この先いいことなんざひとっつもありゃしねえぞ」
この本には、特別付録として「御一新前後 江戸東京鳥瞰絵図」という、今尾恵介さんの力作の絵地図が付いていた。維新前後二十年の江戸から東京への変遷がよくわかる貴重なものだ。
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