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木曾の桟と石川貞清

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『時代小説 読切御免第四巻』に、火坂雅志さんの「命、一千枚」が収録されていた。この短篇小説は、天正十八年に信州木曾谷が豊臣家の直轄地になったところから始まる。木曾の美林に目をつけた秀吉が、領主の木曾義昌を下総国網戸に移し、代わりに自らの息のかかった代官を木曾谷に置いて木の伐採に当たらせた。

その代官が鬼瓦とあだ名される石川備前守貞清。木曾福島の土豪山村道祐の娘おぬいは、借金のかたに貞清の側女に上ることになる。そして、木曾福島から妻籠の代官所へ向かうおぬいが通ったのが、東山道(中山道)随一の難所「木曾の桟(かけはし)」だった。

木曾の桟は木曾川の渓谷にそそり立つ岩壁に杭を打ち込んで板を敷き、木道を作ったもので、一歩間違えば川へ転落して激流に飲み込まれる危険があったという。高所恐怖症気味の私は、想像するだけで足がすくんでしまう。

この桟は1647年に旅人のたいまつの火の不始末で消失し、翌1648年に尾張藩により、長さ100メートル、高さ13メートルの石垣を組み上げる一大工事の末、幅14メートルの桟道が設けられたという。この後、中山道の交通が発達する。そういえば、平岩弓枝さんの『はやぶさ新八御用旅 二 中仙道六十九次』にもこの場所が登場する。

今はもう石垣の跡が残っているだけのようだが、がぜん、木曽路を訪れてみたくなった。

ちなみに、石川貞清は後に尾張犬山城主として一万二千石の大名に出世するが、関ヶ原の戦いで西軍につき敗れ、命は助けられたが所領を没収された。経済官僚系の武将の知られざる一面を描いた「命、一千枚」は火坂さんの短篇集『桂籠』にも収録されている。

はやぶさ新八御用旅(二) 中仙道六十九次 (講談社文庫)

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桂籠 (講談社文庫)

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