1月15日の朝日新聞の朝刊に、奈良・東大寺にある正倉院所蔵の伝説的香木「蘭奢待(らんじゃたい)」に38カ所の切り取り跡があることが、大阪大学の米田該典・助教授(薬史学)の調査で明らかになった、という記事が載っていた。
「蘭奢待」の正式名は「黄熟香」で、長さ156cm、重さ11.6kgと二人がかりでも抱えきれぬほどの大きさ。ベトナム産のジンチョウゲ科の樹木に樹脂や精油が付着したもので、鎌倉時代以前に入ってきたといわれている。
付箋で切り取り跡が示されているのは、八代将軍足利義政、織田信長、明治天皇の3人だが、三代将軍足利義満、六代将軍足利義教も切り取ったと見られているが、全体で2~6センチ程度の切り取り跡38カ所を確認したという。米同じ個所を繰り返し切ることもあるので、実際には50回くらい切り取られたと可能性もある。
織田信長ゆかりの香木ということで、時代小説には「蘭奢待」は時折出てくる。正倉院の呪術集団を描く伝奇小説、梓澤要さんの『遊部』もそんな作品のひとつ。また、大久保智弘さんの『仮面疾風』でも登場する。
今回の調査・発見により、「蘭奢待」の切り取り犯として、思いがけない人物を描くことも可能になり、時代小説の楽しみが広がった。秀吉や家康、柳生宗矩あたりも十分可能性がありそう。
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