唇が数日前から腫れて引きつるような痛みがあり、病院に行った。医師は、患部をルーペで見て「ヘルペスですね」とあっさり言った。自分の唇ながらちょっと気味が悪い感じ。やだなあ。
荒山徹さんの『十兵衛両断』を読んでいる。柳生家を軸にした連作形式の短篇集だが、「陰陽師・坂崎出羽守」という伝奇小説好きの心をくすぐるような話が収録されている。坂崎出羽守成正といえば、夏の陣で落城する大坂城から豊臣秀頼の正室で秀忠の愛娘千姫を救出したことで知られる武将。
黒煙を吹き上げる大坂城天守閣を目の当たりにして、不遇の孫娘を哀れむ家康が、
「誰ぞお千を救う者はおらぬか、救う者あらば、お千を妻せてつかわそうぞ」と公然と口にしたという。ところが、千姫を救出した坂崎出羽守へ嫁ぐことはなく、桑名十万石本多忠政(本多平八郎忠勝の息子)の嫡男忠刻に再嫁している。
時代小説では、坂崎出羽守は酷い醜男で、その上大坂ノ陣で顔に二目と見られぬ火傷を負い、当の千姫が嫌い抜いている。一方、出羽守は千姫を恋焦がれ、入輿を襲わんと企んでいる、というステレオタイプな設定が多い。
常々、この解釈に納得いかないものを感じていたが、「陰陽師・坂崎出羽守」では新しい出羽守像を描いていて面白い。しかも、朝鮮出兵時の宇喜多秀家の襲われた怪異と関係付けている。この怪異については、荒山さんの『魔風海峡』でも、高麗七忍衆の忍法の一つとして登場する。
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