上田秀人さんの『蜻蛉剣』に、加賀藩前田家筆頭家老本多政重の話が出てくる。徳川家康の謀臣本多佐渡守正信の四男で、宇都宮城吊り天井事件で失脚した本多正純の弟。
秀忠の寵臣岡部荘八を殺害後、徳川家を逐電し、正木左兵衛と名乗って宇喜多秀家、福島正則に仕えた。その後、前田利家に召し抱えられ、利家の命で上杉景勝の家老直江兼続の一人娘と婚姻を結び、婿養子となるが、妻の死を機に兼続との縁を断ち、前田家に帰参して五万石の家老筆頭となった。
注目すべきは実力主義の戦国の世とはいえ、短期間に、主人を五人も変えた末に、五万石の家老職に就いたということと、いずれも徳川恩顧の武将たちばかりということ、謎が尽きない。
本多政重というと、羽多雄平さんの傑作伝奇時代小説『本多の狐』が思い出される。未読だが、安部龍太郎さんの『生きて候』では、主人公に据えられている。俄然、気になりだした人物だけに、ぜひ、読んでみたいと思う。
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