佐伯泰英さんの「密命」シリーズ第13弾、『追善 密命・死の舞』を読み終えた。主人公の金杉惣三郎・清之助父子がかつて剣の教えを請うた鹿島の米津寛兵衛の一周忌の追善が題材になっている。サービス精神旺盛な作者らしく、読みどころは、そればかりでなくたくさんある。
大身の旗本家当主と嫡男が謎の死を遂げ、その跡には血縁のない別の大身の旗本家から養子が入るという、事件が頻発した。不審に思った南町奉行大岡越前守は、金杉惣三郎に密命を下す。探索を始めた惣三郎の前には、穴沢流の遣い手が警告に現れる。一方、回国修行中の清之助は、奈良の宝蔵院流の槍術道場や柳生道場を訪れる。宮本武蔵の世界になっていくのが面白い。
金杉惣三郎は、御前試合の審判を務めたりして、偉くなってもおかしくないのに、相変わらず火事場始末御用の荒神屋で帳付けとして働いている。その業種の関係もあり、このシリーズでは火事の描写が多い。今回も牛込赤城明神下西天神町から出火し、三番町界隈まで延焼している。
江戸の火事というと、明暦三年(1657)の「振袖火事」 、明和九年(1772)の「行人坂の火事」、文化三年(1806)の「芝車町の火事」が三大大火として有名。つい最近まで「文化の大火」の火元を芝車坂と思っていたが、いろいろ調べてみたら、「芝(高輪)車町」から出火というのが正しいようだ。惣三郎の住まいがあるのが「芝七軒町」で、稽古に通う道場が「車坂」石見道場だったこともあり、思い込んでしまっていた。
火事のシーンを印象的に使う作家に、飯嶋和一さんがいる。『雷電本紀』では「行人坂の火事」が、『黄金旅風』では長崎の火事が、それぞれドラマティックに描かれている。
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