小泉首相の愛読書として、ベストセラーになった『信長の棺』は、やはり面白かった。桶狭間の合戦の謎から本能寺の変で信長の遺体喪失の謎までを、最新の信長研究に独自の解釈を加え、読みごたえのある作品になっている。
成功の最大の要因は、「信長公記」の作者太田牛一を物語の主人公にしたことだと思う。語り部でもある老年期に入った牛一は、70歳を過ぎて時代小説家デビューした作者の分身でもあるように思え、読者に共感を持ってもらいやすい。信長信奉者の筆頭ともいえる牛一を主人公としたことで、多くの信長ファンの心も捕らえている。
秀吉の依頼で信長の伝記を書いた牛一が、秀吉の前で内容の確認をするシーンが印象に残る。秀吉の凄みと個性がうまく描かれている。次回作ではもっと秀吉を描いてほしいと思う。
本能寺の変を描いた作品というと、寺に集まった六人が、一夜ずつ、自分の人生を変えた「本能寺の変」を語るという趣向が新鮮だった『本能寺六夜物語』と、信長の偉業の後継者に明智光秀をと考えた設定が面白い『本能寺』が思い出される。
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