森福都さんの『長安牡丹花異聞 (文春文庫)』を読み終える。
唐の都・長安に住む、利発な少年黄良は病の母のために、夜に輝く牡丹を発明する。唐代、花といえば富貴花、すなわち牡丹のことを指し、一株の牡丹に数万銭を費やすものもいた。混血の偉丈夫崔融と西域の美貌の舞姫小蘭が黄良に加勢、三人は一攫千金を図るが、狡猾な宦官王学理が花と小蘭を付け狙う…。
松本清張賞を受賞した表題作をはじめ、全六編の中国奇想小説を収録した短篇集。しばし、中国ファンタジーの世界に誘う素敵な作品集でもある。父母の敵を追う少女玉瑛と捕物名人の無名の活躍を描く「累卵」、楊貴妃に思いを寄せる青年揚建と人語を解する巨駱駝の緑耳の珍道中を描く「殿(しんがり)」が、読み味がよく、中国のもつスケールの大きさを伝えていて、とくに強く印象に残った。
「累卵の戯」とは、物語の中で無名が企図した見世物のこと。三尺四方の台の上に生の鶏卵をより高くより美しく積み上げた者に、皇帝陛下より金品が下賜されるというコンテストである。
最近、江戸を舞台にした作品を読むことばかりで、久々に中世の中国に身を置くと、何とも新鮮な感じがして、リフレッシュさせられる。