辻堂魁(つじどうかい)さんの文庫書き下ろし時代小説シリーズ20巻、『架け橋 風の市兵衛』(祥伝社文庫)が刊行されています。
唐木市兵衛を相模平塚・須賀湊の廻船問屋《弓月》の父子・七左衛門と三一郎が伝言を持って訪ねてきた。相手は返弥陀ノ介の許から姿を消した女・お青だった。伊豆沖で海賊に捕らえれるも逃げ出して、七左衛門らに助けられていた。弥陀ノ介には内密にと請われ、市兵衛は単身須賀湊へ向かう。
一方、弥陀ノ介は、〈東雲お国〉と名乗る女海賊の討伐のため、浦賀奉行所に派遣される。だが、お国は弟を殺された哀しみで、復讐の鬼と化していた……。
15巻の『夕影』で姿を消した、青(せい)が久々に姿を現します。乗っていた船が暴風雨で破船し、女海賊〈東雲お国〉により一時は囚われの身になりますが、傷つきながらも逃げ出して、廻船問屋・弓月の七左衛門に助けられます。
お青は弥陀ノ介の最愛の人です。そのお青から、「助けてほしい。弥陀ノ介に言うな」の伝言を受けて、市兵衛は友・弥陀ノ介のために須賀へ。
女海賊〈東雲お国〉は、相模から伊豆、駿河、安房上総などの湊へ、闇に紛れて侵入し、廻船問屋や裕福な商家に押し入り、女子供にも容赦なく斬り捨て、金目の物を奪っていきます。そのお国が溺愛する弟を、お青に殺されて復讐の鬼と化します。
今回の読みどころの一つは、女海賊に対して、市兵衛の風の剣が挑む船上で格闘シーンです。百戦錬磨の海賊たちを相手に、狭い船上を縦横無尽に飛び回る市兵衛に、ハラハラドキドキ、興奮します。
また、物語ではサイドストーリーとして、市兵衛の縁談話が描かれています。
『待つ春や』での市兵衛の縦横無尽な活躍を知った、武州忍田領阿部家のお側衆をつとめる大庭桐右衛門から、娘の婿に請われて、見合いをすることになります。
この縁談話の顛末も大いに気になります。
同時刊行ということもあり、19巻の『遠き潮騒』と合わせて上下巻という感じもしますが、「風の市兵衛」ファンとしては至福の時を過ごせます。
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『遠き潮騒 風の市兵衛』(19巻)
『架け橋 風の市兵衛』(20巻)