2016年10月29日に99歳で亡くなられた、伊藤桂一(いとうけいいち)さん。謹んでご冥福をお祈りいたします。
1962年、直木賞を受賞した「蛍の河」をはじめ、従軍経験を生かした戦記小説で活躍が知られていますが、時代小説の隠れた名手でもありました。朝日新聞の訃報(10月31日)でも、「叙情的な作風の時代小説もある」と簡単に触れられていましたが、作品名までは紹介されていませんでした。
故人の偲んで、伊藤さんの時代小説をいくつか紹介したいと思います。
『病みたる秘剣 風車の浜吉・捕物綴』(学研M文庫 ※新潮文庫版も)
根津の浜吉の名で知られた御用聞は、ある事件を機にお役御免、五年の所払いで江戸を逐われた。年季が明けて江戸に戻った浜吉は、小料理屋で働くお時と、小日向の親分配下の留造と出会い、昔鳴らした捕物の冴えを取り戻し、数々の難事件を解き明かしていく!
暗い過去を持つ主人公が魅力的な、この捕物小説は、1992年5月にフジテレビ系で、仲代達矢さん主演でドラマ化もされています(なんとその前にも、1981年5月に同じくフジテレビ系で平幹二朗さん主演でもドラマ化されていました)。
鬼怒川沿いの大きな宿場町、阿久津。行き交う多くの人々で賑わいを見せているが、何かと事件も多い。川船の仕事一切、宿場の管理も請け負う河岸問屋を舞台に、日々の出来事の中から拾い上げられたホロリとさせられるような人情話が花を咲かせる。若い船頭・喜作と薄幸の娘・ユリとの悲恋を語る「鬼怒の船唄」、その喜作が子持ちの後家と山雀師の縁を結ぶ「鬼怒で鳴く鳥」等連作9話。
伊藤さんは詩人としても活躍されましたが、その叙情的な作風が時代小説の中で味わえる作品です。
愛しあう佑伍と多恵に突然の別れが訪れた。藩内の抗争で汚名を着せられた多恵の父が切腹、家名を断たれた一家は藩を追われたのだ。料亭の女と深い仲になり酒をあびる佑伍。金の力に縛りつけられ豪商の妾にされた多恵。やがて二人は傷だらけの心を抱いて再会するが…。武家社会をかりて、愛のかたちの変相と孤独な心の漂流を描く現代的時代小説。
実は、読み逃していた作品で、作者を偲んで読みたいと願っています。ここで紹介している作品をはじめ、文庫で読める時代小説は、残念ながら絶版になっています。
■Amazon.co.jp
『病みたる秘剣 風車の浜吉・捕物綴』(学研M文庫 ※新潮文庫版も)
『花ざかりの渡し場』(新潮文庫)
『淵の底』(新潮文庫)