植松三十里(うえまつみどり)さんの文庫書き下ろし小説、『猫と漱石と悪妻』が中央公論新社・中公文庫より刊行されました。
文豪・夏目漱石の一家の知られざる生活ぶりが、鏡子の目線で描かれていて興味深い物語になっています。鏡子と漱石の愛と葛藤に満ちた夫婦生活、二男五女に恵まれ、波瀾に富んだ子育て、名作の誕生秘話などが綴られています。
裕福な家庭で三人姉妹の長女として育った中根鏡子は、はっきりした物言いで表裏のない性格。見合い相手として現れた夏目金之助(漱石)に一目ぼれした鏡子。「苦労するが大成する」という占い師の言葉を支えに結婚を決めるが、漱石の赴任先の熊本での新婚生活に四苦八苦する。しかし、それは苦難の序章に過ぎなかった……。
朝寝坊で、漱石に対して遠慮なしの物言いから、陰で「悪妻」と言われることが多い鏡子ですが、気難しい漱石を支える、規格外の良妻ぶりを発揮してます。物語を通じて二人の絆の深さが伝わってきて、読み味のよい作品です。
四女愛子の出産時、産婆が間に合わずに漱石が急きょ産婆役をつとめることになりドタバタする場面など、文豪の別の面が垣間みることができて、思わず頬が緩んできます。
今年(2016年)は漱石没後100周年の年。9月24日(土)より、NHK土曜ドラマ「夏目漱石の妻」が放送されます。鏡子の『漱石の思い出』(夏目鏡子述・松岡譲筆録)を原作に、尾野真千子さんが夏目鏡子を、長谷川博己さんが漱石を演じます。
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『猫と漱石と悪妻』