北原亞以子さんの短編小説集、『こはだの鮓(すし)』がPHP文芸文庫より刊行されました。収録作品は、下記の通りです。
楽したい
こはだの鮓
姉妹
十一月の花火
たき火――本所界隈(一)
泥鰌――本所界隈(二)
〈特別収録1〉ママは知らなかったのよ
〈特別収録2〉新選組、流山へ
北原さんは、『恋忘れ草』で第109回直木賞(1993年)を受賞し、『深川澪通り木戸番小屋』や『慶次郎縁側日記』のシリーズもので人気が高い作家です。しかしながら、短編の名手でもあります。そのうちのいくつかは時代小説アンソロジー(傑作選)に収録され、またほとんどは短編集に収録されています。
本書は、2016年6月に刊行された『初しぐれ』(文春文庫)と並んで、北原さんの未収録短編を収録した作品集です。「楽したい」と「こはだの鮓」には、人生に躓いた男が登場します。しかしながら、躓いたままの暗い話でなく、読み終えると明日を生きる活力が出てくるから不思議です。
「姉妹」は作者には珍しい平安時代を取り上げています。「十一月の花火」は第二次世界大戦のころの話。「たき火」と「泥鰌」は大正時代の本所が舞台になっています。
「ママは知らなかったのよ」は、昭和40年代の東京が舞台にした現代小説で、第1回新潮新人賞(当時の名称は新潮文学新人賞)受賞作。「新選組、流山へ」は、作者のライフワークともいうべき、土方歳三ものの原点となった作品です。
本書は、作者の短編小説の名手ぶりを堪能するうえで貴重な作品集であり、長編やシリーズものだけではない、作者の新しい面に出会うこともできます。