NHK時代劇の原作にもなった、宮部みゆきさんの『桜ほうさら』(上)(下)がPHP文芸文庫より刊行されました。
父の汚名をすすごうと、上総国搗根藩を出た古橋笙之介は、深川北永堀町にある富勘長屋に暮らすことに。世間知らずの若侍に対して、貸本屋の治兵衛は、写本の仕事を世話する。母に疎まれて、家族と心が通わないもどかしさを感じる中で、笙之介は「桜の精」のような少女・和香と出逢う……。
えどで父の死の真相を探り続ける笙之介は、奇妙な拐かし事件に巻き込まれるが、和香の協力もあり、事件を解決する。そして、父を陥れた偽文書づくりの犯人にたどり着くが……。
笙之介の周りで立て続けに起こるミステリアスな事件の絡み合った糸が解きほぐされ、上総国搗根藩をめぐる巨大な陰謀が明らかになっていきます。そこには人の怖さと温かさ、弱さと強さを鮮やかに対比して描かれています。
――嘘というものはな、笙之介、釣り針に似ている。釣り針の先には、魚の口に引っかかったら容易に外れぬように、返しがついている。
嘘というものにも、返しがついている。
だから、一度引っかかったらなかなか抜けない。
それでも抜こうと思うならば、己の心も抉ってしまう。嘘は、一生つきとおそうと覚悟を決めたときだけにしておきなさい。
人生のほろ苦さと人々の人情を爽やかに描き心に沁みる、この傑作時代ミステリーを年末年始の休みにゆっくりと味わいたいと思います。
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『桜ほうさら』(上)
『桜ほうさら』(下)