暁 知明(あかつき ともあき)さんの、『隠密代官 甲州街道刀売り道中』が大和書房・だいわ文庫から刊行されました。暁さんは、文芸評論家の榎本秋(時代小説でのペンネームは福原俊彦)さんの実弟で、本書がデビュー作になります。
甲斐国で起こった百姓一揆「天保騒動」の頃。天領の伊豆韮山に勝海舟よりもすごい男がいた。反射炉や西洋砲術を取り入れたことで有名な伊豆韮山代官・江川邦次郎(太郎左衛門英龍)。江戸三大道場の一つ「練兵館」創立者で神道無念流の達人・斎藤弥九郎とは旧知の仲。刀売りに扮して二人は甲州博徒が暗躍する甲斐国へ隠密行する……。
伊豆韮山代官と神道無念流の剣豪はともに幕末史に名を残した英傑だが、斎藤弥九郎は、一時、江川太郎左衛門のもとで代官手代を務めていて、天保八年ごろにお忍びで調査行をしていたことを示す資料もあり、とても興味深いです。
本書は、二人が甲州微行に出た際の様子を太郎左衛門本人が後になって描いた画「甲州微行図」にヒントを得た文庫書き下ろし時代小説です。史実を押さえながらも、二人の珍道中と活躍ぶりが活写されています。
だいわ文庫といえば、風野真知雄さんの「耳袋秘帖」シリーズを最初にリリースした文庫レーベルで、しばらく刊行がなかった文庫書き下ろし時代小説が再開したのはうれしいです。