倉阪鬼一郎(くらさかきいちろう)さんの『もどりびと 桜村人情歳時記』(宝島社文庫)は、俳諧師三春桜村(みはるおうそん)が出合った四つの物語で構成される人情時代小説。
浅草の路地の奥にひっそり店を構える鰻屋、今日を限りに店を閉めようとする谷中の蕎麦屋、芝神明に七年にわたって一日も欠かさず願をかける簪職人……。俳諧師の三春桜村が四季折々に出会った人々はみな哀しい過去を持っていた。しかし、生きることに絶望しかけた彼らに奇跡が起きる……。
人の身に起こった奇跡に立ち会う証人として、俳諧師というのは適役なのかもしれません。桜村は、折々で句を詠んでいきます。
「いえ、ね。俳諧の俳ってのは、人に非ずと書くじゃないですか。普通の人が信じないようなことでも、頭をやわらかくして信じようとしたりするのが俳諧師の心意気でしょう」
本書収録の「第一話 香り路地」は書き下ろし時代小説アンソロジー『大江戸「町」物語』に、「第二話 藍染川慕情」は『大江戸「町」物語 月』に、「第三話 廻り橋」は『大江戸「町」物語 光』にも収録されています。
「第四話 もどりびと」は本書書き下ろし作品で、三話を踏まえて、桜村自身の哀しい体験と再生の話が綴られていきます。
人はみなもどりびとなり春の波
大切な人を喪い悲しむ人々を勇気づけるために、亡くなったひとがこの世にもどる。そんな奇跡を信じることで、冷えた心に温かさをもたらし、少しずつ癒されていきます。新感覚の市井小説です。
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『大江戸「町」物語』
『大江戸「町」物語 月』
『大江戸「町」物語 光』
『もどりびと 桜村人情歳時記』