『柝の音響く めおと旅籠繁盛記』|千野隆司|小学館文庫
2025年4月1日から4月10日に刊行予定の文庫新刊情報として、 「2025年4月上旬の新刊(文庫)」を公開いたしました。
今回、特にご紹介したいのは、千野隆司(ちの・たかし)さんによる文庫書き下ろしの時代小説『柝(き)の音(おと)響く めおと旅籠繁盛記』(小学館文庫)です。
中山道の板橋宿。寂れた貧乏旅籠・松丸屋を舞台にした時代小説シリーズの第2弾です。第1巻では、私自身が解説を担当させていただいたこともあり、今作の刊行を心待ちにしておりました。
あらすじ
板橋宿の貧乏旅籠・松丸屋は、宿そのものか、一人娘のお路を奪われるという危機に直面していました。蕨宿を取り仕切る駕籠屋・岩津屋から借りた二十一両の返済期限が、あと二ヶ月に迫っていたのです。
そんな折、お路に助けられたことをきっかけに松丸屋へ身を寄せるようになった元無宿者の直次は、ある客から芝居興行で大金が動くという話を耳にします。返済のためには、板橋宿に宮地芝居を呼ぶしかない──そう覚悟を決めた直次ですが、場所の確保、一座の誘致、資金集めや客集めなど、困難は山積みです。それでも、居場所を与えてくれた松丸屋のため、直次は皆と力を合わせ、一つひとつ問題を解決していきます。
しかし、その動きを快く思わない者たちも、ついに動き出し……。(『柝の音響く めおと旅籠繁盛記』(小学館文庫)Amazonの紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
主人公の直次は、大怪我を負って板橋宿へたどり着いた際、松丸屋の一人娘・お路に助けられ、そのまま松丸屋に居着くようになります。怪我が癒えた後は、奉公人のいない松丸屋で番頭の真似事から下男の仕事まで、できることを何でもこなしていました。
しかし、松丸屋は今、最大の危機を迎えていました。隣宿・蕨宿を仕切る駕籠屋で金貸しでもある岩津屋傳左衛門から借りた二十一両の返済期限が迫っており、返済できなければ旅籠かお路を失うことになります。
松丸屋の主人でありお路の父でもある喜兵衛には、金策の目途は立っていません。それでも娘を苦界に落とすつもりは毛頭ありませんでした。直次にとっても、堅気の仕事に就ける松丸屋は、ようやく手に入れた大切な居場所です。しかし、借金返済の妙案は見つからずにいました。
そんな中、直次は松丸屋に逗留していた足袋屋・中村屋久米右衛門から、芝居興行によって大金が動くという話を聞きます。そこで彼は、宮地芝居の一座を呼んで興行を打つことを決意するのです。
著者の代表作シリーズの一つ『おれは一万石』では、一石でも欠ければ大名の座を失う弱小藩を舞台に、世子井上正紀が毎回金策に奔走する様子が描かれます。
本作では、貧乏旅籠で働く元無宿者の若者・直次が、借金返済のために芝居興行に挑む姿が描かれています。あらすじを読むだけで、胸が高鳴り、想像がふくらむ一冊です。

今回ご紹介した本
