すずめのお師匠 もつれ糸|氷月葵|角川文庫
氷月葵(ひづき・あおい)さんによる文庫書き下ろし時代小説、
『すずめのお師匠 もつれ糸』(角川文庫)が新たに本棚に加わりました。
本書の主人公・草加冬吾は、手習い所「雀堂」の師匠として子どもたちに読み書きを教えるかたわら、町の聞き込みを通じて、与力を務める双子の兄・紀一郎の捕物を手伝うことも。心優しい冬吾のもとには、寺子の子どもたちに加えて、犬のアカや茶虎猫のトラ、さらには雀たちなど、さまざまな生き物が集まってきます。
著者について
氷月葵さんは、2022年に「御庭番の二代目」シリーズ、「神田ののっぴき横丁」シリーズ(以上、二見時代小説文庫)、「仇討ち包丁」シリーズ(コスミック時代文庫)で、第11回日本歴史時代作家協会賞シリーズ賞を受賞。近作には「密命はみだし新番士」シリーズ(二見時代小説文庫)もあり、文庫書き下ろし時代小説で活躍中の注目作家です。
物語のあらすじ
役者殺しの正体は――?
馬喰町に住む芝居一座の役者が殺された。
手習い師匠の冬吾は、与力を務める双子の兄・紀一郎と共に、事件の謎を追う。
留守宅を狙った盗人の仕業か、それとも怨恨か?
血のつながりはなくとも寝食を共にする、芝居一座の家族のような関係に戸惑いながら探索を続ける中、書きかけの芝居の台本がなくなっていることが明らかになる――。江戸の「家族」のかたちを見つめる、シリーズ第2弾!
(『すずめのお師匠 もつれ糸』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)
読みどころ
本シリーズの魅力は、主人公・冬吾と双子の兄・紀一郎との微妙な距離感にあります。
双子というだけで忌避された冬吾は、草加家から離れ、世間の目から遠ざけられるようにして生きてきました。
前作では、与力として働く兄と手習い師匠の弟という二人が、わだかまりを乗り越えて力を合わせ、事件を解決しました。
本書では、紀一郎の両親も含めて「家族」の姿を見つめ直す場面が心に響きます。
冬吾は、これまで触れることのなかった芝居の世界に足を踏み入れ、若竹一座で起きた役者殺しの真相に迫ります。子役の竹丸との交流や、一座の座員たちとの心のふれあいを通じて、人と人との絆が描かれていきます。
そして、やがて明かされる芝居台本盗難の真相とは――。
やさしさあふれる兄弟が芝居一座という“もう一つの家族”と向き合う、読後感さわやかな人情捕物小説です。
今回取り上げた本
書籍情報
すずめのお師匠 もつれ糸
氷月葵
KADOKAWA・角川文庫
2025年3月25日初版発行
カバーイラスト:田尻真弓
カバーデザイン:二見亜矢子
目次:
第一章 消えた役者
第二章 駆け込み訴え
第三章 内輪もめ
第四章 子捜し
第五章 ひび入りてなお
本文283ページ
