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少年・吉田茂危機一髪。湘南大磯を舞台にした明治青春ミステリー

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松籟邸の隣人(二) 炎夏の章|宮本昌孝|PHP研究所

松籟邸の隣人(二) 炎夏の章(単行本)宮本昌孝(みやもと・まさたか)さんの 『松籟邸の隣人(二) 炎夏の章』(PHP研究所)を紹介します。

主人公は、12歳から16歳、多感な少年時代を送る吉田茂。彼は後に総理大臣や外務大臣を務め、優れた政治感覚と強いリーダーシップで戦後日本の礎を築いた政治家です。本作は、明治20年代の湘南・大磯を舞台に、多感な少年時代を過ごした吉田茂と、その隣人・天人(あまと)がバディを組み、保養地で発生した事件を解決していく青春ミステリーの第2弾です。

物語のあらすじ

物騒な事件が頻発する日清戦争前夜――。

敬愛する陸奥宗光・亮子夫妻をはじめ、政財界の大物が集う湘南・大磯。明治27年(1894)3月、藤沢の耕餘塾(こうよじゅく。神奈川県屈指の私塾)を卒業した吉田茂は、中学入学のため東京へ住まいを移します。夏休みは大磯の別荘・松籟邸でのんびり過ごす予定でしたが……。

外務大臣・陸奥宗光が、最強国イギリスとの命懸けの交渉の末に不平等条約改正を成し遂げた矢先、日清戦争が勃発。不穏な情勢の中、茂は亮子から、天人の壮絶な過去を知らされることになります。

(『松籟邸の隣人(二) 炎夏の章』カバー帯の紹介文より抜粋・編集)

読みどころ

本シリーズの大きな魅力の一つは、少年時代の吉田茂が主人公として登場することです。
正義感が強く、弁舌に長けた姿は、後の大政治家を彷彿とさせます。小柄で腕力こそないものの、漢文や英語に精通し、大人を相手に堂々と渡り合う胆力を備えています。しかし、躾の厳しい養母・士子(ことこ)には頭が上がらない一面も。純真さと好奇心を持ち合わせた、魅力的な少年として描かれています。

もう一人の主人公は、茂少年の前に颯爽と現れる 松籟邸の隣人・天人シンプソン です。
長身で彫りの深い端正な顔立ち、パナマ帽に白いシャツ、真っ白な長ズボンという洗練された装いの若い男性。彼はアメリカで探偵社に勤めた過去を持ち、その経歴は謎に包まれています。(勝手に、ディーンフジオカさんをイメージしています)

歳の違いを超えて、二人はファーストネームで呼び合う友人となり、大磯で次々と発生する事件をともに解決していきます。

本作のもう一つの魅力は、舞台となる湘南・大磯の歴史的背景です。
渋沢栄一、山県有朋、五代目尾上菊五郎、医師・松本順など、当時の政財界・文化界の大物が別荘を構えたこの地。その風光明媚な景色とともに、時代の空気を色濃く映し出しています。

また、本作では外務大臣・陸奥宗光と、その妻で絶世の美女・亮子が重要な役割を果たします。
不平等条約改正に奔走する陸奥宗光、日本の国際的地位向上と権益拡大を目指して日清戦争へと向かう国家の動き、そして、天人の壮絶な前半生の謎……。

物語はクライマックスへ向けて、ますます盛り上がっていきます。読みどころ満載の第2巻です。

今回取り上げた本


書籍情報

松籟邸の隣人(二) 炎夏の章
宮本昌孝
PHP研究所
2025年3月25日第1版第1刷発行

装丁:芦澤泰偉
装画:水口理恵子

目次:
第九話 遠近の跫跫
第十話 事変の落子
第十一話 二十七年目の維新
第十二話 浮浪児と半玉
第十三話 因果のヒットマン
第十四話 結の人
第十五話 再変、発火
第十六話 道行夏氷人

本文331ページ
初出:月刊文庫『文蔵』2023年4月号~2024年3月号の連載「松籟邸の隣人」第九話~第十六話に、加筆・招請したもの

宮本昌孝|時代小説ガイド
宮本昌孝|みやもとまさたか|時代小説・作家1955年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部卒業。手塚プロ勤務などを経て、執筆稼業に専念。1995年、『剣豪将軍義輝』で一躍脚光を浴びる。2015年、『乱丸』で第4回歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞。...